葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

1212行進

 我が家の住む地域の公立中学校は、2学期制で、前期と後期に分かれている。6月の下旬に前期中間、9月の中旬に前期期末、11月中旬に後期中間、2月下旬に後期期末と、年4回の定期考査が行われる。

 中間考査といえば主要5教科、期末考査といえば実技教科を含む9教科だと思っていた。しかし、3年生が11月の中旬に推薦書類の提出を行なうため、全学年ともに後期中間が9教科、後期期末は5教科だった。中2までは後期期末までが通知表に反映するが、中3では後期中間で通知表が決定する。

 私が学生時代にお世話になっていたバイト先の店長が、学期末に言っていた言葉を思い出した。

「今日は通信簿の日だな。そろそろ息子が行進しながら帰ってくるぞ」

 意味が分からずポカンとしている私に、店長が笑いながら教えてくれた。

「うちの息子の通信簿はいつも「1」と「2」ばかりなんだよ。だから、「1,2,1,2」って行進して帰ってくるんだ」

 ミツキの中2の前期通知表は、ついに1212行進状態になった。店長のようには笑えなかった。

 数学と音楽を除いて「2」が並び、かろうじて数学は「3」、音楽は衝撃の「1」だった。

「音楽ってどうやったら『1』が採れるの?」

「いやあ、オレみたいにテストの点数が悪くて、楽器が全く弾けなくて、歌も口パクだとこうなるんだな。それからマズイ事件があった。先生が教室に来るのが遅かったから音楽室でかくれんぼしているところに先生が来ちゃって。オレ、そのときロッカーに隠れてたから出られなくなって。で、まあ、先生に結局見つかって怒られたんだ」

「アホか」

 後期中間は、なんとかしなくてはとがんばったが、なんともならなかった。

 12月上旬、三者面談あった。三者だとまたミツキの生活面の話だけで終わってしまう。私は入試に向けて先生に詳しく話を聞きたかった。そこで、担任の木本先生に連絡し、三者面談の前日に約束を取り付けた。

「公立高校を志望しています。前期の通知表を見て不安で、内申点を計算してみました。高校受験案内の本はまだ持っていないのでネットで調べています。ですが、よく分からないので、先生に直接伺いたくてお時間をいただきました。ミツキの内申点ではどの高校も受験さえできないようなのですが、間違いないですか?」

 私が話し始めると、先生の表情はどんどん悲しげになっていった。

「葉野さん、そうなんです。この内申点では、受験できる高校がありません」

 自分でも驚いたのだが、一気に涙で前が見えなくなった。いきなり泣き出した私を、先生は辛そうに見ていた。木本先生の息子さんは、このときちょうど中学3年生で、受験の真只中。先生は、同じ中学生の子を持つ母親として私の気持ちを察し、私の気持ちが落ち着くまで待ってくれていた。

「やっぱりそうですか。では、なんとしてもこれから成績をあげないといけませんね。もし、万が一、このまま上がらなかった場合、ミツキにはどんな進路がありますか?」

「私立でしたら、1、2校あります。でも、少し遠いです。それから、エンカレッジスクールがあります」

「エンカレッジスクールとは、なんですか?」

「習熟度別少人数授業や30分授業を取り入れている高校です。勉強が苦手な生徒には向いています」

「そういう高校もあるんですね。集中力がない子ですから、30分授業はいいですね」

「ただ、エンカレッジスクールは、数が限られていて、しかも、どんどん人気が出てきています。倍率が高いんです。入試試験自体はないのですが、作文を書くんです」

「作文かあ」

「そうなんですよ。葉野くんは、作文はちょっと難しいですよね」

「はい。作文は無理です。でも、エンカレッジスクールは魅力的です。作文が書けるようになるにはどうしたらいいですか?」

「どうでしょう。うーん。先日授業で書かせた作文です」

 木本先生が、ミツキの書いた作文をファイルから取り出した。その文章は、小学校低学年の文章かと思うほどのひどさだった。

「やっぱり、難しいですね、これは」

「あとは、全入制の通信制高校ですね」

「全入制……」

 最終的受け皿ではないか。

「葉野さん、中3の成績が決まるまで1年あります。まずは、なんとしても『1』をなくしましょう。それから少しでも得意な教科を『3』に上げましょう」

「そうですね。音楽をせめて『2』に、それから社会と美術と体育を『3』にあげるようにミツキに話してみます」

「そうですね。『3』が増えれば、受験できる学校も増えますから」

 木本先生と話している間は、前向きな気持ちでいられたが、帰り道はまた悲しくなった。

 知能テストの結果を知ったときよりも何倍も悲しかった。いったい何がこんなに悲しいのだろうかと自問自答した。

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