家族の話

父の車で通学

高校の3年間、私は父の運転する高級社用車で途中まで送ってもらおうと常に狙っていた。 1,2年生のころは部活の朝練があり、父とは時間が合わなかった。狙いは定期試験1週間前。部活が休みになる期間のみだった。 学校は8時40分までに登校なので、本来なら7…

【家族の話】散歩中の会話③

高1の冬のある日曜日、朝から母と私は揉めた。原因は覚えていないが、私はそのとき初めて母に暴言を吐いた。母の仕返しが怖かったり、中学受験の失敗を引け目に感じたりしていた私の初の暴動だった。 私がいきなり激しく言い返し、反抗期(遅 ! )丸出しで怒…

【家族の話】散歩中の会話②

高3の夏は、父との海岸堤防散歩に頻繁に行った。部活も引退し、付属短大志望予定の私は、のんびり日々を過ごしていた。その後、急に気が変わって他短大を受験することになり、慌てることになるのだけれど…… 5時過ぎに出発し、6時前には到着。1時間半ほど散…

【家族の話】散歩中の会話①

父との海岸堤防散歩は、私が中学生から25歳で独り暮らしを始めるまで続いた。続いたといっても、そう都合が合うものでもなく、回数でいったら20回程度だろう。 私は普段はおしゃべり好きだけれど、父とはほとんど会話をしない。何もしゃべらないのが心地いい…

【家族の話】海岸堤防

父とは夜釣り以外にも、早朝の海へ散歩に行った。 30代から糖尿病を患っていた父の日課は、早朝散歩だった。平日は5時に起床し、1時間程近所を散歩してから出社していた。 また、休日の天気のいい朝は、社用車(本当はダメだけど……)で海へ行き、散歩をして…

【家族の話】夜釣り

父は、夜釣りに社用車で行っていた。本当はダメだけど…… 私は高級社用車のカーステレオの魅力にはまって以来、なんとか同乗しようと父が出かけるチャンスを狙っていた。 父が釣り用具の手入れを始めると、すかさず頼み込んだ。 釣り場は、家から20分程の海に…

【家族の話】父とドライブ

父の会社に一度だけ行ったことがある。確か小6の秋だったと記憶している。 夕食後、父が忘れ物を取りに会社に行くことになり、なぜか私も同行した。 父は大手車メーカーにドライバーとして勤務していた。家近くの駐車場に止めてある社用車で、担当役員宅に毎…

【家族の話】中学受験後日談②

中高生時代の私は、敢えてダンスのことは思い出さないようにしていた。レッスンに通えないのならば忘れるしかない。自分でレッスン代を稼いで、ダンスを習う日を夢見ていた。 少しでもダンスに近いことがしたいため、中学では体操部に入部。完全に新体操と勘…

【家族の話】中学受験後日談①

3月の上旬、箱根へ一泊の家族旅行をした。私の中学受験と3つ年上の兄の高校受験とで夏も年末年始も旅行はおあずけだった。 表向きは兄の第一志望合格祝いだが、実際は母をなだめるために計画されたお疲れさま旅行だった。母の無視は続いていて気まずかったが…

【家族の話】中学受験⑥

3校とも全滅と分かった時点で交換日記を書いた。 受験とは関係のない普段通りのたわいのない話でページを埋め、ページの一番下に『中学校でもよろしくね』とだけ。 ミナコは一切何も聞いてこなかった。私も一切何も話さなかった。 1週間ほど経ったある日。恐…

【家族の話】中学受験記⑤

交換日記の返事は書かなかった。何度も読み返したかったのだ。 1月下旬、千葉県の女子中学校を受験した。予想通りあっさり不合格。 「5倍は厳しかったか。良い練習にはなっただろうから、まあいいじゃない。次は本番だからがんばりなさい」 意外にも母は落ち…

【家族の話】中学受験記④

中学受験本番が迫ってきた。母に言われるがまま、受験校は女子校3校に決定した。 1校目は、千葉県の女子中学校。母曰く、千葉県の中学は受験日が東京より早いので、本番前の練習のための受験とのことだった。しかし、練習とは言えない気にかかる点があった…

【家族の話】中学受験記③

夏を制するものは受験を制す。 ということで、深夜0時過ぎまで机に向かうことになった。ついウトウトすると「顔を洗ってこい!」と母の怒号が飛んだ。顔を洗ったところで眠気は消えない。苦手な問題になればなるほど眠気が襲ってくる。解き方を質問したところ…

【家族の話】中学受験記②

ミナコはつくづく優しい子で、その後も遊べない理由を一切聞いてこなかった。休み時間は遊び、しゃべりながら下校して、塾のない日は遊んだ。ミナコと過ごす時間だけが、唯一リラックスできる時間だった。 1つ困ったのは私が塾の日のテレビの話で、当時は欽…

【家族の話】中学受験記①

私が中学受験をしたときの話。 幼稚園年少で下町の団地に越してきた私は、すぐに団地内のダンス教室に興味を持ち、通うこととなった。レッスンはとても楽しく、友だちもたくさんできた。 毎年夏休みの始めに発表会があり、舞台に立つことが楽しくて、ライト…

【家族の話】ひと休み

大好きな父とのエピソードを忘れないようにと書き始めた『家族の話』。 私と父とのエピソードを中心に書いていきたかったのだが、話の方向性がおかしくなってしまった。父より、母の出番の方が多くなるのだ。 母のエピソードを書くとなると、悪口ばかりの暴…

【家族の話】禁断の窓拭き

父の人となりをもう少し詳しく説明しておこうと思う。 まずは見た目。158㎝と小柄だが細マッチョ。 顔は20代の写真では藤井フミヤ風だったが、30代からあれよあれよという間に髪が薄くなり、若いころの面影はなくなった。でも、元藤井フミヤ風なのだから、髪…

【家族の話】父が怒った日②

まるで歌を歌うように語尾を伸ばし、おどけたしゃべり方をする父。そんな穏やかで優しい父が怒るのを見たのはたったの3回。 そのうち1回は、母に対してだ。 父が外資系の会社から日本の大手企業のドライバーへ転職するのを機に、西麻布のアパートから下町の…

【家族の話】父が怒った日②

まるで歌を歌うように語尾を伸ばし、おどけたしゃべり方をする父。そんな穏やかで優しい父が怒るのを見たのはたったの3回。 今回は兄に対してだ。 どこの家でも起こる、兄妹間でのテレビのチャンネル争い。私と兄も頻繁に観たい番組をめぐって喧嘩になった。…

【家族の話】父が怒った日①

父は、まるで歌を歌うように語尾を伸ばし、おどけたしゃべり方をした。 そんないつも穏やかで優しい父が怒ったところを、私は3回だけ見たことがある。 そのうちの1回は、私に対してだ。 幼少時代に千葉県の佐原に疎開していた父は、きのこや山菜について詳し…

【家族の話】上野の案件に対する父の対応

上野にいる傷痍軍人が本当の父親だと、母が執拗に迫ってきた話の続き。 避けていた上野に、社会人になってから再び訪れるようになった。同期との飲み会は、上野が多かったのだ。久しぶりの上野はひどく緊張したが、昔のような光景はもうなかった。 10年あま…

【家族の話】本当の父親は誰?

かつて上野が苦手だった。子どものころの私にとって、上野は危険な場所だったからだ。 年に何度か上野恩賜公園に行った。そして、毎度悲劇は起きた。 上野での我が家の行動ルートは決まっていた。上野駅公園改札口を出て、上野恩賜公園に入る。公園で遊ぶだ…

【家族の話】幼いころの私と父

幼い頃の記憶は曖昧で、ポツポツと覚えている程度だが、どれも大切な思い出だ。 【両肩変色ジャケット】 父のMA-1風のセージグリーン色のジャケットは、両肩が変色していた。 その両肩変色ジャケットを着ている父に抱っこされて、遠ざかる散歩道をぼんやり眺…

【家族の話】父の生い立ち

2018年10月3日、父がデイサービス先で倒れたと連絡があった。 3か月後の2019年1月10日午前3時、父はこの世を去った。 父が亡くなったと介護施設から連絡が来たとき、私は悲しみよりも「お疲れ様でした」という気持ちが強く、気が動転することはなかった。葬…