志望校決定

 12月に入ってすぐに、仮評定が出た。国語と美術が「3」にあがっていた。これにより、私立H高校の推薦基準をなんとかクリアした。正確に言うと5教科で「1」不足しているが、野球部加点があることで救われた。野球をがんばってきて本当によかったと思った。

 残念ながら、第一志望の私立D商業の推薦基準には、3教科で「2」不足と9教科で「3」不足という結果となった。野球部加点をしても及ばず。しかし、私はD商業を受験して欲しかった。

 D商業は、単願と併願どちらの推薦でも、試験と面接があった。それに対してH高校は、単願推薦の場合は面接のみなのだ。

 私は、ミツキに試験を受けて合格して欲しかった。面接だけのH高校を選んでしまったら、すぐに勉強する気を失ってしまうだろう。努力して合格する喜びを知って欲しかった。

 ミツキと夫と私は、各高校のメリット・デメリットを細かく書き出して話し合った。

 私は、D商業の方が生徒に活気があり、前に進むエナルギーを感じる学校であることを主張した。H高校の方は、消極的に感じたのだ。

 夫は、D商業は高校までだが、H高校は大学の付属高校であることを主張した。

 ミツキは、D商業に行きたい気持ちはあるが、単願推薦が取れないことに不安を感じているようだった。また、H高校の消極的な雰囲気の方が自分に合っている(気楽でいられそうだ)と感じているようだった。

 家族会議の翌日は、中学校の三者面談があった。担任の先生は、相変わらず近くにいるのに遠く感じた。それがこの先生の持ち味で、グイグイこない加減が悪くないのかもしれないが……

「D商業かH高校を志望しているんですね?」

 事前提出資料を見ながら淡々と話が進む。私は家族で話し合ったが、結論がまだ出ていないと伝えた。

「こんな場合どうしたら良いのでしょうか?」

「そうですね。どちらの学校がいいという判断基準ではなく、より確実に合格できる学校という判断基準がいいと思います」

 そうきたか。ぐうの音もでない。私は納得がいかないが、その通りだろう。

「ぼく、やっぱりH高校にします」

 それまで一言も発していなかったミツキが、遠慮しつつも、はっきりと言った。

 次の土日、夫とミツキは、仮評定を持参してD商業とH高校の個別相談会へ行った。夫にも両校を実際に見てもらおうと思ったのだ。

 H高校では、問題なく単願推薦を承諾してもらえた。

 D商業は、単願推薦はもちろん無理だった。

「単願にはできないけど、何度も足を運んで志望してくれているから、なんとかしてあげたい。併願受験で優遇はします。よっぽど点数が悪くなければ合格するから」

「だいたい各教科何点以上必要ですか?」

「うーん、昨年度は50点だったかな」

 ミツキと夫の気持ちは、完全にH高校に決まってしまった。

 夏休みからD高校の過去問題集を繰り返し解いていた。初めて解いたとき、各教科50点は取れていたので、私はD商業に懸けたい気持ちがあった。

 しかし、冷静になって考えてみればやはり不安になる。過去問題集を始める前の私の予想と、実際のミツキの進捗状況は、大幅に違っていたのだ。

 直近の年度分のテスト1回目。各教科50点獲得。間違えた問題を解説し、訂正した後、理解度を確認するためミツキに解説をさせる。その後再試験をすると、高得点獲得。

 5年度分のテストを一巡した。毎年同傾向の問題なので年度ごとに少しずつ点数が上がるかと思いきや、どの年度も50点だった。

 5年度分のテストと訂正と自己解説を終え、二巡目。一巡目のやり直しで高得点獲得したはずなのに、50点に戻っていた。

 しっかりと頭に叩き込んでから別の問題集に取り掛かる予定だったが、点数は一向に上がらなかった。

 特に英語の文法と数学の一次関数は致命的だった。何度私が解説しても、何度ミツキ自ら解説できるようになっても、しばらくするときれいさっぱり忘れてしまうのだった。

 やはり判断基準は「より合格できる高校」にすべきだと、心底残念だが私も諦めざるをえなかった。

 12月半ば、正式にH高校側へ単願推薦の申請が受理された。その後の予定は、1月中旬に願書提出し、その1週間後に面接、その2日後に合格発表と続く。更に1か月あいだを開けて、2月の中旬に学力試験がある。

「内申が上がって、H高校の単願推薦もらえてよかったね。単願だと試験はないけど、合格発表後に学力試験があるからそれに向けての勉強は続けるよ。まだ、気を抜くのは早いからね」

 他の受験生たちは、これからが追い込みなのだ。ミツキにも気を引き締めて欲しかった。

 

 にほんブログ村 子育てブログへ
にほんブログ村