高校見学②

 秋には、公立2校と私立1高の文化祭に行った。偏差値52の公立E高校と偏差値48の公立F高校と偏差値49の私立G高校を選出。偏差値の違いでどれだけ学校の雰囲気が違うかをミツキに体感させたかった。

 まずは、偏差値48公立F高校。ミツキはF高校の最寄りの駅でノックアウト状態となった。
 改札を出てエスカレーターを下ると、駅前はバスロータリーとなっていて、ロータリーの向こう側は、繁華街で飲食店が連なっている。エスカレーターを下った目の前には大きな木があり、木の周りには膝の高さくらいの鉄の柵があった。午前10時だというのに、年配の男女4人が柵に腰を掛けて酒盛りをしていた。

「オレ、こんな街に毎日通えない」

 比較的静かな落ち着いた街に住んでいるミツキには、刺激が強かったようだ。

 F高校の文化祭は、華やかさがまったくなかった。教室内の出し物が見えないように廊下側の窓ガラスを装飾しているのだが、その方法が良くない。段ボールを貼り付けて直に装飾をしている。色味が少ないのだ。廊下を歩いていると、丸まったティッシュなどのごみが落ちている。極めつきはゴミ箱。75リットルのビニール袋が、廊下の踊り場の壁に3つ並べてガムテープで貼り付けられていた。

 私は校内美化が気になるのに対し、ミツキは生徒自体が気になったようだ。

「見た目からヤンキーじゃん」

 帰り道、私とミツキは「F高校はないな」などと散々文句を言いながら帰った。が、しかし、このF高校だってミツキには高嶺の花なのだから、文句を言う権利もない。

 その足で偏差値52の公立E高校へ文化祭のはしごをした。E高校は校門から活気があった。教室の窓ガラスの装飾も格段に美しかった。段ボールの上から模造紙を貼り、その上に装飾をしている。廊下もきれいだ。最大の違いは、大きめの段ボールを装飾したゴミ箱が設置されていたことだ。

「同じ都立でも全然違うんだな。勉強、学力って大事なんだな」

「それを感じてくれたら、うれしい」

 日を改めて偏差値49の私立G高校へ行った。そこには私が求めていた文化祭があった。装飾に風船を使うなど、色彩豊かでクオリティが高い。校内が明るく感じる。生徒の表情もイキイキしている。

「なんか懐かしいなあ、この雰囲気。私の高校の文化祭もこんな感じで、とても楽しかったんだよ。やっぱり私立はいいな」

「でもな、なんかパリピだな」

 いろいろ文句の多いヤツだなと思った。

 何はともあれ私の目論見通り、学校の雰囲気は生徒の学力によって変わるものだと、ミツキは理解したようだった。おかげでほんの少しだけ、毎日の勉強に真面目に取り組むようになった。

 儀式のオンパレードで集中力も相変わらずなかったが、がんばらなければいけないという気持ちは出てきていた。自分の気持ちをコントロールして落ち着かせようとしているのもうかがえた。

 3年生前期期末試験の結果は、中間試験よりは上がったものの前期通知表には反映されなかった。ただ、夏季体育のプール授業に真面目に参加したおかげで、体育だけは「3」にあがっていた。残念だったのは数学で、一次関数を全く理解できず、ついに「2」に下がってしまった。

 11月半ばの後期中間試験ですべてが決まる。D商業の推薦を取るには内申を「5」上げなくてはならない。さすがにこの時期に、上ばかり見ている場合ではない。現実を直視して合格圏の学校を探さなければ。

 私立の商業高校を探していると、普通科と商業科のあるH高校を見つけた。H高校の推薦基準は、5教科「13」かつ9教科「22」。前期通知表結果からすると、「2」ずつ不足していた。

 後期中間試験直後の土曜日、私立H高校の説明会に行った。とても洗練されたきれいな校舎だった。説明会では、手厚く指導してくれる良い印象を受けた。個別相談で前期通知表を見せると、内申が「2」不足しているが、3年間野球部を続けたことを考慮して加点「1」としてくれた。

「あと『1』足りないが、引き受けましょう」

 担当の先生の力強いこの一言に、肩の緊張が解け、見るもの全てが明るく見える気がした。ここ1年間感じることのなかった安心感を得られた。

 あとは後期通知表の仮評定を待つのみだ。

 

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