タイムカプセル⑤
手紙の続き。
近頃の私には抱負がない。「前向きに生きる」が私の座右の銘だったのに……。
考えが変わったわけではない。周りに合わせて、無理して余計なことまで抱負にすべきでない、ということだ。
だって「今年は文をたくさん書く」が抱負なら、そんなの私個人の問題だからあっさり達成できるだろう。
でも、周りの人のように「今年は彼氏をつくる」を抱負にしても、こればかりは巡り合わせもあるからどうしようもない。
だから敢えて、何も考えずに周りに踊らされることなく自然体でいたいんだ。
おーっと、なにやらゴチャゴチャと言い訳がましい表現が増えてきた。
どうした、27歳の私。
アヤノ、サトミ、カズミがとても羨ましい。でも、私は別に寂しいわけじゃない。これが強がっているだけなのか、心からそう思っているのかも分からない。
私のことが私にも分からない。遠くから自分を眺めているようだ。
周りの人に面倒なことは言われたくない。面倒なこととは「結婚は?」とか「彼氏は?」ってこと。
でも、そう言いたくなるのが人の性。それを言わせないためにも、彼氏と結婚は必要なんだ。そんなわけで、私は結婚したいと思うことがある。
でも、それが結婚したい理由って寂しいよね。
だから、だから、だから、敢えてもうこのことは考えるのをやめましょう!
こんな風に珍しくナーバスな気分になるのは、アヤノ、サトミ、カズミ、関くんの結婚がバタバタと決まったからだね。
でも、私は私。のんびり行くからね。
なるほど、ゴチャゴチャ言い訳がましくなった理由が分かった。
当時の私は、友だちの結婚ラッシュにダメージ受けまくりだったのだ。
ダンスの仲間で年齢も近いアヤノ、サトミ、カズミが立て続けに結婚。そしてその直後の関くんの結婚で完全にノックアウトとなった。
関くんとは、高校時代の私の初彼氏。一緒にいるだけでドキドキするかわいいお付き合いだった。交際期間は1年に満たなかったが、その後は友人関係がずっと続いていた。社会人になってからは、仕事帰りの飲み友だちだった。
「オレ、結婚することになったんだ。だからさ、今後はもう飲みに行けなくなるよ」
急展開のこのセリフに一気に酔いが覚めた。前回会ったときに気になる子がいると言っていた。その数か月後には結婚報告。なんと展開が早いのだと驚いた。
だが、そんなことはどうでもいい。私が一番驚いたのは、結婚したらもう一緒に飲みに行けないということだった。飲み仲間が1人減る!
私は「男女の友情は成立する派」だった。だから関くんともずっと友だちだった。私に彼氏がいても、関くんに彼女がいても、友だちとして飲みに行っていた。
結婚したら、もう飲みに行けない。関くんのその真っ当な線引きに「……まあ確かに」と納得しながらも、私はのたうち回るのだった。
なんともとんでもない時期に未来の自分宛の手紙を書いたものだ。この時期でなければ、
「50歳の私もハッピーでしょう?過去(いま)の私も毎日ハッピーだよ」と書いていただろう。
いや、そんなことないのかな?時間が経つと都合悪い記憶は忘れてしまって、楽しかった記憶だけ残っているだけなのだろうか。
この手紙を読むまで、27歳の私がまるでアラサー女子ドラマの主人公みたいな悩みを抱えていたとは、完全に忘れていた。
さあ、手紙も残り3行だ。
次回に続く