タイムカプセル②

 「1998.5 → 2021まで封印」と書かれた「27歳の私が50歳の私に宛てた手紙」の封筒は、当時私が勤めていた会社の社用封筒だった。

 グレーの長3封筒に鉛筆書き。

 ありえない……。貴重な手紙を書くときは、おしゃれなレターセットに高級万年筆(持ってないけど)で書くものでしょう、普通は……

   なに?どういうこと?思いつき?

   そもそも、なんで書こうと思った?

   書いた記憶が全くない。

   何を書いたんだろう。

   結構分厚い。長文のようだ。

 両手で封筒を持ちながらひとしきり考えを巡らせた後、笑いが止まらなくなった。

 なんだかすべてが私らしい。

 23年後の自分に手紙を書こうという発想や、友だちと一緒にノリで書くとかでなく、人知れず書くところが私らしい。

 それに、こんな珍しいことをしたら、そう簡単には忘れないものではないか?  
 キレイさっぱり忘れてしまうのも私らしい。

 なにより、社用封筒に鉛筆書き! ダサい、ダサすぎる。このダサさがなんとも私らしい。情けなくなる。

 社用封筒チョイスは、私の愛社精神の表れだろうか。

 ふと、中の便せんが気になった。社用便せんなんて物はなかった。いったい何に書いたのだろうか。本文までも鉛筆書きの可能性もある。ゾッとするな……。

 内容を想像してみる。27歳の私といえば、現在とは全く違う生活をしていた。

 夫との出会いは29歳。当時は交際相手もいなかった。

 26歳で1人暮らしスタート。愛社精神を持ち、職務全うを心がけていた。水木の仕事後と土日にダンスレッスンに通い、月火は合コンもしくは女子会。金はしっぽり家飲みしながら映画鑑賞。

 そして、年に1、2回1週間程度の休暇をとって、石垣島に住む友人の家に滞在。生活のルーティーンが確立していた。

 26歳で1人暮らしを始めたのは、想定外だった。

 私は母との折合いが悪く、常に独立は頭にあった。ただし、独立するときはマンションを購入したときと決めていて、預金に励んでいた。

 マンション購入を考え始めたのは25歳。電車の中吊り広告を見て新築1ルームマンションの見学を思い立った。

 25歳の私は結婚願望がまるでなく、一生独身なら1ルームで十分と思っていた。しかし、実際に部屋を見るとその狭さに息苦さを感じた。

 何軒かの物件を見学し、ある不動産屋の言葉によって考えが変わった。

「1ルームを購入して、住んで、結婚したら貸出して、家賃収入にするといいですよ。でもね、1ルームだと借り手が付かないこともあります。だから、購入するなら3LDK以上がオススメです。結婚してそのまま住んでもいいし、貸出す際も借り手が付きやすいです」

 当時の預金額は1000万円程度で、3LDKを購入して1人で返済していくには心もとない。

 母との衝突を避けて大人しく過ごし、実家にいられる間にもっと預金を増やそうと奮起した。

 ところが、そう思った矢先にやらかした。母の逆鱗に触れ「出てけ、出てけ」の雨嵐。私は逃げるようにして、賃貸アパートの契約をした。

 敷金礼金、家賃、生活費。思ったようには預金できなくなり、預金は腹ばい状態になった。

 ふと、結婚して、私が頭金を支払い、残りは2人で返済するという案が頭に浮かんだ。非常に不謹慎な思いつきだが、初めて結婚の2文字が頭に浮かんだ瞬間だった。
(相手もいないのに……)

 それから1年後、27歳の私は、どんな心境で50歳の自分に手紙を書いたのだろうか。

 予想としては、未来の私がどんな暮らしをしているのかを問いかけ、予言めいたことを書き、未来の夫や子どもに話しかける文もあるのではないか。

 そんな想像をしながら、50歳までの2年間を楽しみに過ごすのだった。

にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
にほんブログ村