内申をあげるには②

 美術と体育の他に内申を上げられそうな教科は、社会と国語だと思った。試験前、ミツキはいつも数学と英語しか勉強していなかった。数学はミツキが好きな教科で、放っておくと数学にしか手を付けなかった。それでは困るので、私主導で英語をやった。国語・理科・社会もやらせたかったが、そこまで手が回らなかった。試験日当日に提出するワークは、答えを丸写しして、丸付けをするという、悲しく不毛な作業でごまかしていた。提出したという事実はあっても、試験結果を見れば何一つごまかせていないことは明白だ。

 ちなみに、本人なりに努力していた数学と英語だが、常に平均点より30点下だった。やってこの点数だと、やらなかったら大変なことになる。だが、やってもこれなら、その他の教科に少し時間をシフトしてもいいのではないかと思った。

「ミツキは、小学生のとき社会と理科がとてもよくできたよね。中学になってからはぜんぜん勉強しないから点を取れないだけで、やれば上げられると思うの。その証拠にさ、期末試験で、前日に社会を少しやっただけなのに、いつもより点数よかったよね」

「そうなんだよ。寝る前のたった30分の勉強で40点取れるってすごくね?」

「うん、すごいよ。だからさ、これからは社会に力入れようよ。ミツキは、社会と理科の暗記が得意なんだよ。理科の暗記以外はやらなくていいから。暗記分は点数取ろうよ」

「わかった」

「それから、国語なんだけど。国語も学校の定期試験は点数が取りやすいと思うの。だって、授業で何度も読んでる文章の読解だよ。初見の文章じゃないんだから。本当はしっかり授業のノートを取って欲しいんだけどね。それが無理でも、せめて課題のワークは全ページ自分でしっかりと解こうよ。それをやるだけで点数上がるよ」

「わかった。もう答えは写さないよ」

「じゃあ、もう時間だから三者面談に行こう」

 私が木本先生と面談した3日後は、三者面談だった。ミツキと今後のことを話しあってから、学校へ向かった。

 この内申では受験できる高校がないという現実を、ミツキは木本先生から改めて突きつけられた。すでに観念しているので、妙に落ち着きを払っていた。

「葉野くん、音楽の『1』は特に何とかしないといけないよ」

「はい」

「それから、プールね。見学しちゃったら先生だって評価しようがないんだよ」

「はい」

「そういえば、社会の点数がいつもよりよかったよね」

「そうなんですよ。前日に30分やっただけなのに。ということは、もっとやっていれば、もっと取れたってことですよね」

「そうだよ、葉野くん。社会が得意なんだね。これからは、社会にも力を入れるといいよ」

「はい、そうですよね」

 私は心の中で(木本先生、ナイス!)と思っていた。ミツキは、私の意見だけでは聞き入れないが、他の人からも同意見を言われるとたちまち腑に落ち、聞き入れる傾向がある。3日前の面談のとき、木本先生と社会の話になった。そこで、社会に力を入れるよう先生から言って欲しいと頼んでおいたのだ。

「あと、ちょうど1年だよ。来年の今ごろには、高校に提出する内申が出ているよ。気持ちを入れ替えてやっていかないとね。部活をがんばれているんだから、他もがんばれるよ」

「はい」

 突きつけられた現実は厳しいが、逆に考えれば学校に通ってさえいれば、これ以上成績の下がりようもない。そう思うと、これだけ成績が悪くても楽しく学校に通っているミツキを誉めてやりたくなった。心も体も健康に、楽しく学校に通っているミツキに感謝。

 あとは、挑戦あるのみだ。「興味ない」という言葉で片付けるのでなく、まずは無理にでも興味があるフリをしてやってみたら、おもしろさが見つかるものだ。

「ミツキ、おもしろいから笑うんじゃなくて、笑うからおもしろくなるんだよ。やりたくない事でも、まずやってみよう。一生懸命やったらおもしろくなるんだよ」

 

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