タイムカプセル⑥

 手紙の続き

 

 これからの私ってどんなだろう。

 未来でこれを読んでいる私は、もうすべて知っているんだね。

 未来の私がこれを読んでがっかりしないように、1日1日を楽しく大切に過ごすからね。 

 

 やや情緒不安定気味の手紙は、なんとか上向きな気持ちで締めくくられていた。

 

 その後の私はどうなったかというと……。

 

 ダンス教室をサトミとカズミが辞めた後はしばらく寂しい気持ちでいたが、辞めずに残ったアヤノと精力的にレッスンをするようになった。また、アヤノや若い勢力になんとかして抗おうと、内緒で別の教室にも通ったりした。

 仕事面では、翌年、希望していた快適な環境の事務所への異動が叶い、心機一転仕事への意欲が出た。

 彼氏や結婚についてどうこう考えるのはやめて、今自分が一番楽しいと感じることに気持ちを集中させた。

 日中は職務を全うし、夜はダンス教室に通い、女子会や合コンに参加し、読書し、文を書き、映画鑑賞をし、石垣島の友人を訪ねる。

 同じ生活の繰り返しの中にも、小さな成長や気持ちの変化はあった。

 29歳になった私は、不思議と明るい色の服を選ぶようになった。

 GW直前、新しい服を着て合コンに参加し、そこで夫となる男性と出会った。

 合コンの終盤、私がトイレに行くと、トイレから戻ってきたその男性と廊下の角で鉢合わせた。

 目が合った瞬間、ピンクレディーの「インスピレーション」という曲が私の頭の中で流れ始めた。

 そして「私はこの人と結婚するんだろうな」と思った。

 

特別好きなタイプでもない人なのに

最初からなぜか心惹かれたの

電気のようにビリビリと体が震え

愛してしまった私

          ピンクレディ「インスピレーション」

 

 私はこの曲が小学生のころからずっと好きで、家ではいつも口ずさんでいた。

 夫は、私にとってまさしくこの歌詞のような人だった。

 

  私たちは、1年半後の2001年11月に結婚した。プロポーズの言葉も特にないまま、とにかくなんだかトントン拍子に結婚が決まった。

 2003年、ミツキが生まれる3か月前に新居を購入。25歳の私の予定通り、貯めていた預金はマンション購入の頭金に活用。

 4年後にはリオが生まれた。

 夫とミツキとリオとの4人の生活は、とにかく楽しい。

 27歳の私が「未来の私がこれを読んでがっかりしないように」と心配しているが、手紙で気持ちをさらけ出したあと、気を取り直して前向きに生きてくれたおかげで、今の私の幸せがある。

「1日1日を楽しく大切に過ごすからね」という言葉通り過ごした成果だ。

 過去の私に感謝。

 

 子育てに心配事は付きものだけど、心配事も幸せの一部だ。27歳の私には想像しようにも想像できないほどの幸せが詰まった23年間だった。

 

 今までの人生の節目、節目に思ってきたことがある。

 例えば小中高短大の卒業の時に感じたこと。

「ああ、この学校生活楽しかった。学びもたくさんあった。最高な気分だ」

 小学校卒業時感じた最高の気分は、中学校の卒業時には最高の気分のレベルが更新され、もっと最高の気分を感じている。そして、高校卒業時も短大卒業時もまた更新だ。

 会社員時代も楽しかった。学びもたくさんあった。でも、この子育て期の楽しさや学びの多さには敵わない。

 どの時代も楽しかったけれど「○○の頃に戻りたい」と思ったことはない。

 その時その時が一番楽しいし、未来はもっと楽しいのだろう。

 

 ミツキとリオも大きくなり、家族のライフスタイルが変わりつつある。

 この先更にどんな楽しいことが待っているのだろう。

 60歳の私、70歳の私、80歳の私、90歳の私。うーん、さすがに100歳は……。

 

 20年後の私と家族に手紙を書いてみようかな。

 まずは素敵なレターセット購入から始めることにしよう。

 

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