勘違い中学生

 中学生になったミツキは、大きな勘違いをしていた。夜遅くまで起きていてよい。夜遅くまで外で遊んでよい。夕飯を友だち同士で食べに行ける。スマホを持てる。これらが、ミツキの考える中学生像だった。

 小学生までは9時には寝る準備を始めて、9時半から10時には就寝していた。しかし、中学生になった途端に、12時就寝。

 そもそも、帰りが遅い。野球部に入部し、下校時間は6時半のはずだが、一向に帰宅しない。頻繁に8時を過ぎた。何度注意をしても、友だちや先輩としゃべる貴重な時間なのだと言い張った。帰宅が遅いのはよくないが、私としては、帰宅後の時間の使い方が有効であれば、特に問題ないと思っていた。しかし、ミツキの場合はそううまくはいかない。

 帰宅後入浴となるが、これが長い。1時間は出てこない。シャワーをジャージャー使うので、我が家の水道代は一気に3千円も上がってしまった。

 入浴後食事をする。食事もゆっくり1時間かかり、その後勉強するかと思いきや、パソコンでyoutubeを見始める。「宿題は?」と声を掛けると、「宿題なんてない」と言う。「復習した方がいいよ」と声を掛けると「復習するほど進んでない」とか「学校行事の練習で授業がつぶれている」と言った。こうして、毎日机に向かうことなく12時就寝。

 5月の終わりに中学校初めての運動会が行われた。全体的に覇気のない運動会だった。

「今日運動会の打ち上げがあるから行ってもいいか? クラスのほとんどみんながくるんだよ」

 帰宅するなり、まくし立てるようにミツキが言った。私は「ついにきたか」と思った。最近の中学生は、なんだかんだと理由をつけては外食しては遅く帰ってくると聞いていた。

 そもそも彼らは打ち上げの意味を知っているのだろうか。自分たちで1から企画をして作り上げた催しが、無事に終了したときにするものではないか。ひとつの事をみんなで成し遂げ、仲間の結束が固くなったところで、互いを労い、それまでの緊張を解くためのものなのではないか。高校の文化祭などはそれに値する。

 だが、中学の運動会は先生が考えた種目をただやらされているだけではないか。実際目にしたその運動会は、仲間を応援するでもなく、覇気のないつまらない運動会だった。小学校の運動会の方が、盛り上がっていた。

 そもそもなぜ中学生が夜外食する必要があるのだろうか。私が夜外食したのは、高校を卒業する直前だった。親に止められるまでもなく、しようという発想もなかった。周りの友だちも夜外食するのを見たことがなかった。ファミレスのような外食産業が、今のように発展していなかったからだろうか。

 苦言を呈したところで、聞く耳を持たないだろう。それどころか、またいつもの「ママの考えは古いんだよ」が発動するに違いない。はいはい、私は古いですよ。
 でも、1クラス40人もいたら、私と同じ考えで子どもを参加させない親は、少なくとも3割から4割はいるはずだ。それ以外の人だって、喜んで子どもを送り出す親はほんの数名のはずだ。ほとんどの親が行かせたくないと思いつつも、みんなが行くなら仕方ないとか、子どもに押し切られて渋々許しているのだと思う。
 それにいつも思うのだけれど、その「みんな」ってクラス全員のことか? 自分の仲の良い「みんな」なのか? 実際のところ人数は何人なんだ?

 「そんなに行きたければ自腹で行け」なんて言おうものなら、またお得意の「みんなのうちは裕福なんだよ」の発動だ。
 確かに我が家は、みんなの家ほど裕福ではない。だが、それが原因でお金を出したくないのではない。ミツキの常日頃の行動にイラつきが止まらない私は、素直に気持ちよくお金を出す気になれないのだ。
 がんばっている姿を見せてくれていたら、まあたまにはいいだろうという気にもなるのだ。それを毎日水をジャージャー使う人間に、なぜ、行かせたくもない夜外食のお金を出す必要があるのか。

 そう言ってやりたいところだが、30分後に集合だと言ってジタバタ騒々しい。今言っても反抗しまくるだろう。いづれ折りをみて言おうと、ひとまず呑み込んだ。

 ただし、条件を付けた。門限は9時。

 ところが、10時半を過ぎても帰ってこなかった。帰りを心配して、一緒に打ち上げに参加していた野島くんのお母さんに連絡すると、同じく心配していた。2人ともスマホは持っていないので連絡手段がなく、ただ待つしかなかった。

 11時過ぎに帰宅したミツキの態度は、最悪だった。「遅くなって何が悪い。もう中学生なのだから遅く帰ってもいいんだ」と完全に勘違いをした態度に辟易した。中学生のこういう勘違いした行動が「中2病」と言われる所以だろう。

 後日、野島くんは「遅くなってごめんなさい」とお母さんに土下座をして謝ったと聞き、ミツキとの違いにショックを受けた。

 今後どうなっていくのだろうか。ミツキの動向を見定めなくてはいけない。

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