おごり・おごられ問題

 小遣い帳をしっかりとつけることを条件に、毎月定額の小遣いを小学3年生からミツキに渡し始めた。小遣い帳の約束ごともいくつか作った。

①入出金後すぐに小遣い帳をつけること

②月に1度精査すること

③毎月正しくつけられたら、翌年は金額UP

 ミツキは一向に小遣い帳の付け方を覚えなかった。それどころか、使った金額や使途もはっきりしなかった。何度注意しても、何度教えても、書けなかった。次第に、こんないい加減な人間に小遣いをあげる必要があるのだろうかと思い始めた。

 ある月、小遣いをあげなかった。ミツキは、気づかない。翌月も翌々月も、ずっとミツキは何も言ってこなかった。なぜなら、毎月の少額の小遣いを貰わなくても、定期的に現金を手に入れることができたからだ。
 お年玉・誕生日・お盆の帰省・クリスマス、その他諸々。両家の祖父母や親せきからの小遣いを私が阻止することはできなかった。
 ミツキは、毎月の小遣いをもらう喜びよりも、もらわないことで、お小遣い帳をつける煩わしさを回避する気楽さを選んだのだった。

 ミツキは、お金が入ると何の計画もなく使った。主な使途は、買い食いだった。学校では、お金を持って遊びに出掛けていくことを禁止していたが、6年生の夏過ぎから頻繁にお金を持って出かけるようになった。

「放課後遊びに行くのに、お金なんて必要ないんじゃないの?」

 私が苦言を呈するたびに、ミツキはこう言い返してきた。

「ママの考えは、古いんだよ。今どきの親は誰一人、ママみたいな考えの親はいないよ。特にさ、この地域の家庭はうちよりみんな裕福なんだよ。みんなは、お腹がすいたら買って食べろって、お金を持たされているんだ」

 そう文句を言いながらも、ミツキは一応私の言うことを聞き(ただ単にお金がなかったのかもしれないが)、できるだけ手ぶらで出かけた。私は手ぶらで出かかるミツキを、ルールを守る子だなと感心した。だが、ルールを守ることが、必ずしも正しいとは限らないと、後になって思い知らされた。

 12月の終わり、担任の松本先生から電話があった。ミツキが、ある友だちから何度もおごってもらっていて、金額が5千円にまでなっているとのことだった。その保護者から相談を受けたのだそうだ。

 夕方帰宅したミツキにすぐに聞いた。すると、ミツキも金額の大きさに驚いていて、確かにおごってもらったが、3回だけで数百円程度だと言った。

 金額を聞いて少しはホッとしたが、事の本質は回数や金額の問題ではない。そもそも友だちにおごってもらうことが良くないのだ。

 松本先生とその保護者にすぐに連絡をし謝罪した。
 後日、松本先生により保護者と子どもたちが集められ、子どもたちのお金の使い方についての話し合いの場が持たれた。この話し合いで2つのことがわかった。

 ひとつは、ミツキがおごってもらった金額は、ミツキの証言通りだったということ。5千円というのは、その友だちがミツキだけでなく数人におごっていた金額の総額だった。おごってもらったことへの謝罪をし、返金した。

 もうひとつは、これもミツキの言う通り、多くの親がお腹がすいたとき用のお金を子どもに持たせているということだった。おごられる環境を作ったのは、ミツキに買い食いをさせるお金を持たせなかった私だったということになる。

 食べ盛りだ。みんなが何かしら食べたり飲んだりしている中で、我慢するのは辛かったと思う。友だちの方も食べづらかったかもしれない。カップラーメンをすする友だちのそばにいると、一口食べさせてくれたり、時には飲み物をおごってくれたりした。こうしておごり・おごられ問題が起きたのだ。

 ことの顛末を理解し、私は少し考えを柔軟にすべきだったと反省した。

 しかし、どうにも納得はできなかった。私は自分の経験でしかものが計れない。小学生のころの私は、お金を持って遊びに行かなかった。お金を持って行くのは、文房具や本を買うといった明確な理由があるときのみだった。周りの友だちも持っていなかった。買い食いすることは皆無だった。お腹がすいたら家に帰ればいいだけのこと。そもそもお腹がすくまで遊んでいるのがおかしい。こんなにも時代は変わってしまったのか?いやそんなはずはない。学校の指導は、私の考えと同じなのだから。では、私と周囲との金銭感覚の違いということになるのだろうか。

 ところで、ミツキは、おごられっぱなしで、何も感じるものはなかったのだろうか。自分もおごり返そうと思わなかったのか。そこを感じないのは、よくない。おごる、おごられることは、大人でも難しい問題だ。それを自分で稼いでもいない小学生がしているのも、おかしい。これも、私だけの金銭感覚なのか。

 ミツキには悪いけれど、小学生の間はお金を持たせる気にならなかった。だから、遊びに出る前におにぎりなどの重めのおやつを食べさせた。

 話し合いの場が持たれたことにより子どもたちも理解し、このおごり・おごられ問題はひとまずは落ち着いた。だが、金銭感覚の差については、これから先も考えることが多そうだ。

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