3DS

 小学生の子どもたちが公園で、ゲーム機で遊ぶ姿をよく目にする。ミツキの友だちもみんなゲーム機を持っていた。
 特に、ミツキが小1の終わりにニンテンドー3DSが発売されたときは、みんなこぞって飛びついた。そして、当たり前のように公園に持ってきた。当然、ミツキも欲しがった。遊ぶ約束をしても、公園で友だちがゲームをしているのを後ろから見ているだけではつまらないと、ミツキはぼやいた。

3DSを買ったとして、ミツキはいつやるの?家に帰ったら宿題、ワーク、お風呂、食事。全部終わらせてから9時にお布団に入るでしょう。今でも時間がカツカツなんだから、ゲームする時間はないよ。やらなきゃいけないことが疎かになるのはダメなんだから。どの家庭でもさ、子どもがゲームの時間を守らない問題で困っているのね。どこの家庭でも困っている問題をミツキはどうやって回避するのかな?」

「ゲームは、休みの日の時間があるときとか、外で遊ぶときにやるよ」

「うーん。ママはそもそも公園でゲームすることに賛成できないんだよね」

「別にいいじゃん」

「まあ、公園どうこうは、買ってから考えよう。まずは、ミツキが日々の生活を自分自身でスムーズに進めている姿をママに見せてよ。安心させてくれたら購入を考えるよ。
 スムーズな生活って具体的にどういうことか分かるかな?放課後遊びから帰っておやつを食べたら、すぐに宿題して、ワークやって、お風呂入って、夕飯食べて、寝るの。今のミツキの生活を思い出してみて。遊びから帰ったら、おやつ食べながらテレビを観るじゃない? ママが『宿題はいつやるの? 』って聞くと『すぐやる』って言うけどなかなかやらないじゃん。それの繰り返しで結局ママに怒鳴られるじゃん。そういうのはダメなの。やるべきことを先にやってから遊びだよ」

「わかったよ。3DSを手に入れるのためにやってやるぜ」

「お、言ったね。有言実行だよ」

 ミツキの普段の時間の使い方を考えたら、百害あって一利なしの代物ではあるが、ほしい気持ちが起爆剤となってやる気を出してくれたらしめたものだと、私は淡い期待をした。

 しかし残念なことに、何度となく同じようなやり取りを繰り返したものの、ミツキの生活改善は一向になされず購入には至らなかった。

 少し先の報酬のために努力をする気にはなれないようで、あろうことか買ってもらえないことを受け入れてしまった。
 一度は受け入れたとしても、楽しく遊べない環境が続けば、やっぱりがんばってみようと思うに違いないと期待していたのだが、そのうち3DSのことは口にしなくなった。

 理由を聞くと、友だちがミツキと遊ぶときは、ゲーム機を持たずに遊んでくれるようになったのだそうだ。なんということだ。とてもありがたいことだが、私のもくろみは崩れてしまった。

 ときどき、いつもはあまり名前のあがらない友だちと遊ぶことがあった。珍しい友だちと遊ぶなと思うときは、いつも遊ぶ友だちがゲーム機で他の友だちと遊ぶときだった。ミツキとしては、とにかく放課後は誰かしらと遊んでいたいようなので、遊んでくれる友だちがいることはありがたい。とてもありがたいことだが、私のもくろみは崩れてしまった。

 4年生の終わり、担任の倉山先生に「ミツキくんはゲームをたくさん持っているんですか」と聞かれた。カードゲームは持っているが、ゲーム機は持っていないと答えると「ほんじゃあ、ミツキくん自体が人を惹きつける『持ってる子』なんだなあ」と言った。

 それまでは、ゲーム機を持たずにミツキと遊んでくれる友だちへの感謝しかなかった。しかし、倉山先生の言葉を聞いて、ミツキなりの努力の賜物でもあるのかと感心した。

 友だちがゲーム機で遊ぶよりも、ミツキとの遊びに魅力を感じてくれているのであれば、これほどうれしいことはない。

 それと同時に、ゲーム機を買ってもらえるように自分自身を改善することなく、買ってもらえないことを受け入れてしまうミツキを惜しいなと思った。

 やりたいことに熱中できるのだから、やりたいことを手に入れる手段としてやりたくないことにも熱中できたら、一石二鳥なのにと残念に思う。

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