葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

千葉遠征②

 小学生男子の考えることは、なんとバカバカしいのだろうか。お金も飲み物も地図も持たずに、パーク内に遊びに行くための手段としてではなく、気の向くままに、ただ自転車を走らせディズニーランドを目指すだなんて。

 我が家は、ディズニーリゾートのある千葉県舞浜まではそう遠くはない。だが、片道10キロ以上あり、普通は自転車で行こうと思う距離ではないのだ。

 ルートは、本人に聞かなくても察しがついた。我が家は車がないので、どこへ行くにも公共の交通機関を利用する。京葉線の車窓からの景色は、海が見えて眺めがいい。いつもミツキは窓にかじりつき、海を眺めているとばかり思っていたが、実際は高架下の道路、国道357号線を眺めては「行ける」と思っていたに違いない。

「国道357号線みたいな幹線道路は、交通量が多くて近所の道とは違うんだよ。特に首都高速湾岸線から降りてくるトラックも多いからスピードを出していて危ないの。今回は無事に帰ってきたからいいけど、もう次からはやらないでね」

と釘を刺した。

 帰宅が遅いことへの心配から始まり、無事に帰宅したことへの安堵。安堵したことにより、こみ上げる怒り。行先と動機を知ったあとの驚き。バカバカしさからこみ上げる笑い。思わず勇敢だと感心。調子に乗らせてはいけないという戒め。怒涛のように押し寄せる感情に私は疲れ果てしまった。私としては、ミツキに注意したことにより、この件はもう終りのつもりだった。

 ところが翌日、小学校の担任の松本先生から電話がかかってきた。

「昨日、ミツキくんが舞浜まで自転車で行ったことは本人から聞いていると思いますが、今朝ミツキ君たちが、学校で武勇伝としてみんなにそのことを話しましてね。真似をする子が出ると危険なので、指導しました」

 なんとまあ、こんなところに落とし穴。武勇伝として話すことを予想し損ねた。
 確かに先生のおっしゃる通り。先生はさすがだ。私は完全にそこを見落としていた。

 1週間ほどしたある日、武庫川くんのお母さんから電話があった。道でばったり松本先生と会ってしまい、咎められると思ったら、先生が意外なことを言っていたのだそうだ。

「立場上子どもたちを叱りましたが、他の先生ともその根性を誉めてやりたい気持ちもあると話していたんですよ」

 ミツキにこのことを話すと、満足気に「だよな」と言った。

 困ったものだ、夏休み直前にこのような経験をしたら、夏休み中はいったいどうなってしまうのだろうか。

「千葉に行ったのだから、今度は埼玉か神奈川に行ってみたいものだ」

 案の定、ミツキは調子に乗りだした。

「冒険したい気持ちはわからないでもない。けれども、未成年で親の監督下に置かれている身である以上、そんな遠出は許さないよ。
 自分で責任を取れる大人になって、知識・常識・体力をつけた上で、日本縦断とかの偉業を成し遂げてちょうだい。今はまだそのときではないよ。よく考えて行動するんだよ」

 ミツキの右耳から左耳へと私の言葉が流れていく様子が見える気がした。

 門限問題どころか行動範囲問題にまで発展し、つくづく子育てとはままならないと痛感した。子どものころの私が思い描いていた子ども像とミツキは全然スケールが違う。

 私はただミツキが、元気で幸せであってほしいだけだが、それにはやはり、適宜な注意喚起が必要だ。

 松本先生からの暑中見舞いには「無茶せずに楽しい夏休みを」と書いてあった。

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