数の概念

 ミツキは、2年生に進級しても、指を使って算数の計算をしていた。

「7個のブロックと5個のブロックを足してみるね。7を10にするには、5個のブロックを3と2に分けて、3を7と合わせるよ。そうしたら、10になるよね。この10に残った2を足をして、12。だから、答えは12だよ」

 夏休み中に持ち帰っていた学校教材の算数ブロックを使って、繰り上がりの計算の説明をした。説明のあと、続けてミツキにも同じ手順でやらせたが、要領を得なかった。考えているうちに、手の中でコロコロとブロックを転がし始める。とてもよくできたブロックで、ブロック同士が磁石で繋がる。そのうち、計算そっちのけで、ブロック遊びを始める始末。授業中も同じ状態だったに違いない。

 繰り返し計算することで慣れるだろうと、百ます計算を思いついた。しかし、本屋で百ます計算の問題集を見て、初めから百ますは多すぎると思った。そこで、エクセルを使い、自前の九ます計算を作成した。1問横3列×縦3列の表を、A4用紙に10問分。1問ずつのタイムを計って記録を残す。

 夏休み中ずっと、九ます計算をすることにより、タイムは縮まった。好タイムが出るたびに一緒に喜んだことで、九ます計算に対するモチベーションを保つことはできた。しかし、計算が早くなったというよりも、手を使って答えを出すのが早くなっただけだった。

 そもそも数の概念が分かっていない。なんとかならないものかとインターネットで調べていたところ、気になるブログを見つけた。

「小1 算数計算 手を使う 数の概念」

 これらの検索キーワードでヒットしたのは、つくば市学習障害(LD)や発達障害児のための塾をしている先生の「とろる塾のトロールからの伝言」というブログだった。残念ながらyahooブログ終了に伴い、2020/3/11現在ブログを読むことはできず、とろる塾のホームページのみとなっている。

 トロール先生によると、発達障害の子ども達の中には、中学生でも「ひゃくじゅういち」を「100101」と書き、「8+5」という計算を、指を折って数え足す子がいるのだそうだ。これを読んで、ドキッとした。ミツキも5月ごろ通信教材の問題で「100101」と書いていた。それを見た私は、ミツキが私を笑わせようとしているのだと思った。

「ミっちゃん、おもしろくないよ。真面目にやって」

 戸惑っているミツキを見て、マジか! と思った。あまり深追いはせず、数字の下に「一の位、十の位、百の位」と書き込んで教えると、すぐに理解できたので、ちょっと勘違いしただけ、程度に思っていた。

 しかし、こうして2つの事例が並ぶと、やはりミツキは、学習障害なのではという疑念が再び湧いてくる。とはいえ、とろる塾に通っている生徒とトロール先生の激闘を読むと、ミツキのことなど悩みのうちに入らないのだが。

 トロール先生は、数の概念を教えるために平面タイルを使っている。学校教材の立体タイルでは、脳で数を抽象化できない。頭の中で思い描く(絵にする)ことができないと、数の概念化も抽象化もできない。平面タイルであれば、頭の中でイメージ(絵に)しやすく、絵にできるから考える手がかり(根拠)が生まれるのだそうだ。

 ブログでは、平面タイルの材料、作り方、使用方法を詳しく解説していた。

 タイルの種類は、6種類。「 1 」「 5 」「10」「50」「100」「1000」を大きさ、枚数ともに指定通り作る。

 タイルに色は付けてはならない。白と黒のモノトーンが脳の中でイメージ(絵に)し易い。各タイルの縁を黒のボールペンで細く囲み、厚みの部分を黒のマジックで塗る。縁を黒くすることで、より想像(イメージ)しやすくなるとのこと。

 早速作りながら、ミツキにぴったりな教材だとすでに確信していた。学校の立体タイルでは気が散るようで、手いたずらが止まらなかった。また、カラフルな教材も「目がちかちかする」とよく言っていたからだ。よりシンプルな教材がミツキには必要だった。

 トロール先生の解説に従って、ミツキの前でタイルを動かしていった。すると、ミツキは「へえ~」と言いながら目を輝かせた。数の仕組みが分かったという表情だった。

 結構苦労して作ったが、あっという間に数の概念を理解してしまい、タイルは早々に必要なくなった。

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