漢字の宿題②
文字に対する石倉先生の一生懸命さは伝わってきたが、2つ受け入れがたいことがあった。
1つは、テストで答えは合っているのに、文字の形が悪いと言うことで、各1点ずつ減点されたこと。決して読めない字ではない。これにより、ミツキは1年生の間、たったの1度も100点を取ることができなかった。
私自身の小学校時代を振り返る。小学6年生のとき、私は急に算数が楽しくなった。それはなぜかというと、担任の先生が、テストの得点にプラスα点方式を取り入れたからだった。
式と答えが正解であれば各問題に振分けられた点数がもらえる。ここまでは普通である。プラスα点方式は、式と答えの間の途中式を、省かずに間違えずに記入できていると、プラス10点もらるというものだった。つまり、100点プラス40点なんてこともある。中には、60点プラス40点なんて子もいて、胸を張って自慢していた。誰もがプラスα点をもらえることを喜び、算数の途中式を書く。これによって、理解が深まり、自然と算数が好きになった。
減点より加点の方がやる気が出ると思う。
もう1つは、2年生になっても相変わらず怒涛の漢字修正が続く中、ミツキのがんばりが実を結んだときのこと。「間」という漢字で、ミツキが信じられないほど形の整ったきれいな文字を書いた。
「ママ、見てよ。オレさ、間って漢字だけは異常にうまくかけるんだよね。自分でも信じられないくらい」
「本当だ。とってもきれい。これってついに石倉先生に、修正どころか二重丸もらえるんじゃないかな」
翌日、帰宅したミツキはうなだれていた。
「返ってきたノート見たら、丸も修正もなかったら、見てもらえなかったのかと思って先生に持っていったの。そうしたら、先生が『誰かに書いてもらったんじゃないですか』って言ったんだよ。オレ、もうあいつ嫌いだ」
「あれまあ・・・。で、あなたはどうしたの?」
「自分で書きましたって言ったよ」
「そうしたら?」
「丸つけてくれた」
「おお、良かったじゃん! そうとう先生はびっくりしたんだね。先生がビックリしてつい疑っちゃうくらいの文字を、ミツキが書いたってことなんだね。すごいじゃない。今まで、がんばってきてよかったね。門がまえの漢字は特別に得意なんだから、これからも門がまえの漢字が出てくるたびに上手に書いてたら、先生もミツキに悪いこと言ったなって思うよ。きっと」
「うん、まあ、そうだな」
ミツキも、石倉先生も、私も一生懸命。でも、一生懸命がかみ合わない。一生懸命って難しい。