小学校初めての面談

 1年生の夏休み前に行われた、面談でのこと。

「葉野君は、授業中によく質問してくるのですが、その内容が誰にでも分かるようなことばかりなので困ります。他の子どもたちも不思議な目で見ています」

 例えば「バラバラってどういうこと」など誰でも分かることを質問するのだそうだ。その他にも、やりたくないことはやらない。ミツキにだけに声をかけて指示を出せば、指示通りのことができるが、クラス全体に声をかけたことについてはできない。その場の空気が読めずにいつまでもふざけているなど。

 先生はよほど困っているようで、次から次へと出てくる。

「整列の号令は、出席番号順と背の順の二種類あります。号令をかけると皆、どちらの並び順なのかを瞬時に聞き分けて自分の位置に移動します。ところが、葉野くんは、並び順のことなど聞いていません。とにかく、野島くんを探すのです。野島くんは、どちらの並び順でも葉野くんの前だからです。そんなやり方ですから、いつも葉野くんだけ、ワンテンポ並ぶのが遅れてしまうのです」

 やたらと号令に厳しい。ミツキにとってはそれが最善の手段なのだから、ワンテンポ遅れるくらい別にいいと思うのだが。先生も立派だし、他の児童も立派なのだなあ。みんなに付いて行けるか、先が思いやられる。

「葉野くんは、とても野島くんを頼りにしています。いつも野島くんのあとを追いかけまわしています。ですから、今後は葉野くんと野島くんをできるだけ離していこうと思っています。葉野くんは、不真面目な子です」

 私は、言葉が出なかった。

 ミツキと野島くんは、放課後もよく遊んでいて、互いの家にも行き来していた。野島くんは、とても素直な好感のもてる子だ。ミツキが野島くんと仲良くしたい気持ちはよく伝わってくる。しかし、普段のやり取りから、ミツキが野島くんを一方的に追いかけまわしているとは、思えなかった。遊びのことや宿題や持ち物などの確認の電話を架けるのは、野島くんからの方が多かった。ミツキも意外と頼りになるんだなあと感心していたのだ。

 不真面目かあ。けっこう重い言葉だ。まあ、真面目かって聞かれたら、そうではないけれど。

 石倉先生は、とっても一生懸命に先生という職業をやられてはいるけれど、ミツキにはハードに感じてしまう。小学校の先生とは、こういうものなのだろうか。

 今まで私はミツキを「見た目は普通のちょっと風変わりな子」と困りながらも、なんとなく許してきた。幼稚園まではそれで許された。しかし、小学生からは、もう許されないのだと痛感せざるをえなかった。

 結局ミツキには、面談の内容を何も伝えなかった。伝えたところで、混乱すると思ったからだ。

 そもそも、野島くんとミツキを離すとは、どうやるのだろうか。

 野島くんの件は心配だったが、遊びの約束は子ども同士のものだ。学校内の活動には口を出せても、放課後の約束までは口は出せまい。そこは本人達に任せるべき領域だと思った。

 しかし、残念なことに、ミツキと野島くんが放課後に遊ぶことは、ほとんどなくなっていった。遠まわしにミツキから野島くんと遊ばない理由を聞き出そうとしたが、特別な理由などなく、先生が関係しているかも分からなかった。ただ、先生の思惑通りになったことだけは確かだった。

 育てにくい子。確かに私自身が一番そう思いながら、ミツキを育ててきた。でも、ここまでズタボロに言われるとは思っていなかった。救いのない面談内容に、心が折れそうだった。

 そんな折り、学校からの手紙の中で、月に一度スクールカウンセラーに相談ができることを知り、申し込んだ。

 消しゴム事件の直後ということもあり、相談したいことは山ほどあった。

 スクールカウンセラーの笹本先生は、眼鏡をかけた、色白の中肉中背より少しだけふっくらした、優しそうな男性だった。

 消しゴム事件の顛末を話すと、まったく心配ないと断言した。

「ウソが何度も続くようでしたら心配ですが、ミツキくんの場合は、もうないと思いますよ」

 低学年ではよくある話なのだそうで、安心した。

 ミツキの幼児期からの成長過程を、笹本先生に詳しく話した。笹本先生は、何度もうなずきながら、優しそうに微笑んで最後まで聞いていた。そして、私の言動を肯定した。私は間違っていなかったのだと、自分の子育てに自信を持つことができた。終わるころには、まるで羽が生えたように心が軽く感じた。

 これをきっかけに、2年生の3月まで、笹本先生のカウンセリングを毎月受けることとなった。

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