タタカイごっこ

 運動会の翌週、同じピンクグループのユウくんが園を辞めたとミツキが教えてくれた。とてもおとなしい子で、特別にミツキと仲がいいわけではなかったが、ピンクグループ内でリンちゃんとミツキの間をなんとなく緩和してくれている貴重な存在だった。

「ピンクグループ、どんどんいなくなっちゃう」

 ミツキはさみしそうな顔をした。

 相変わらず園での活動にはまともに参加しないミツキではあったが、園を辞めたいとは思ってもいないようだった。友だちと遊べる楽しさが園にはあった。

 3歳半くらいまでのミツキは、きかんしゃトーマスが好きで、生活がトーマス一色と言っても過言ではなかった。それがある日、テレビで偶然目にした『ウルトラマンメビウス』で一変した。

 この年は、ウルトラマンシリーズ誕生40周年だった。パパも私もウルトラマン世代である。今度は家族でウルトラマンシリーズにドハマリしていった。初めのうちは、トーマスとウルトラマンの両方とも好きと言っていたミツキも、半年経つころには、トーマスのキャラクターの名前もあやふやに。頭の中は、ウルトラマンシリーズに塗り替えられていった。

 遊びもタタカイごっこが中心となっていった。ミツキはパパと目が合うと、すぐさま『ウルトラセブン』に変身した。もちろんパパはいつも怪獣で、ミツキを捕まえては技をかける。

 ミツキは、激しく手足をバタつかせてパパから離れると、セブンの必殺技エメリウム光線、ワイドショットとアイスラッガーを連発する。基本、接近戦は好まないのだ。パパからの攻撃で少しでも痛みを感じるといつも「ママー」と言って逃げ出した。メチャクチャ弱い。

 私とのタタカイは、もっぱらキャラクターのソフトビニール人形を使用。ミツキはセブン、私はバルタン星人を持ち、バチバチと激しいタタカイを繰り広げた。もちろん、痛みを伴うことはない。

 園の友だちともタタカイごっこで遊んだ。

 その中でミツキは、タタカイごっこは楽しいが、嫌な面もあると気づいた。なんせミツキは、痛いことは嫌いなのだ。

「バルタン星人、自分の星に帰りなさい」

「セブンよ、我々は地球を征服するのだ」

「そうはさせない。ビーーー(エメリウム光線の音)」

「ふふふ、そんなもの我々には効かない」

「ビービービー(ワイドショットの音)」

ピコピコピコピコ(ウルトラタイマーの音)

「とどめだ。アイスラッガー

ドッカーン(バルタン星人真っ二つ)

 これが、ミツキの理想形。

 親は手加減してくれるが、友だちは激しい。

 友だちとのタタカイでは、喉がかれるほどビームを出しても敵は倒れないのだ。いつの間にか、友だちにぶたれるままになっていった。教室内で遊んでいる様子を遠目で見ていて、やられ過ぎだなと思うことがあった。

 そこで、園でのタタカイについてミツキに問うと

「なんでみんなミっちゃんのことをぶつんだろう」

といって泣き出した。

「イヤならやめてと言ってみたら?」

「でもね、そこでやめてと言ったら、ビームとかのごっこ遊びもできなくなる」

 まだ4歳だというのにいろいろ考えている。健気なミツキをいとおしく思った。

「明日、ママが先生にどうしたら楽しく遊べるか聞いてみるね」

 数日後、アヤノ先生がみんなに話してくれたそうで、ミツキの表情が明るくなった。

 タタカイごっこというと、母親としてはあまり良いイメージは持てないが、こういった経験も成長の上でとても大切なものなのだなと実感した。

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