葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

メリット・デメリット

 レッドウィングスへの入部を、ミツキ自身でじっくり考えて決めたということ自体が、私にはとてもうれしかった。思い起こせば、ミツキには、たくさんの習い事をさせてきた。

 幼児体操・水泳・英語。それからスポーツチャンバラは約3年間習っていた。
 スポーツチャンバラとは、チャンバラごっこと小太刀護身道を基にし、エアーソフト剣で戦う競技である。
 どの習い事も、ふざけてばかりだった。ふざける最たる要因は、ミツキ自身がやりたいと発信してきたものではないということだと思う。だから、小2の初めにスポーツチャンバラを辞めて以来、私の提案による習い事はもうさせまいと決めていた。

 ミツキ自身で決めたことをやるという、新しい扉が開かれようとしていた。

 だがその前に、ミツキに了承しておいてもらうことがいくつかあった。
 レッドウィングスでは、野球の練習だけをするのではでなく、子どもたちを楽しませるためのいくつかの行事があった。その行事のひとつであるクリスマス会の出し物の中には、ミツキのやりたくないことが2つあった。

 1つは、ダンス。クリスマス会では、毎年5年生が趣向を凝らしたダンスを披露することになっていた。
 クリスマス会前、5年生が平日に集まって練習しているところを見かけた。高校のダンス部に所属する姉を持つ子がいて、その姉が振付をしたヒップホップダンスを練習していた。練習段階ですでにみんな上手で圧倒された。

「ミツキは来年5年生だから、ダンスを披露しないといけないよ。いつもみたいに、イヤだやりたくないは通用しないよ。5年生は3人しかいないから、ちゃんとやらないとね。楽しそうにやらないと、見てる方も気の毒よ」

「仕方ないからがんばりはするけど、ヒップポップなんて踊れないよ」

「そこは大丈夫。この学年にヒップポップの振付できる人はいないから。簡単だけど見せ場のあるダンスを考えればいいのよ」

 もう1つは、なんと、女装。これは、毎年6年生が披露することになっていて、クリスマス会で最も盛り上がる出し物だった。ミツキは「オレは男だ」感を異常に発信している少年だった。
 例えば、通信教材のテスト用紙にある氏名欄横の性別欄は、普通に「男」に丸を付けるだけでは足らず、「女」をぐりぐりに塗りつぶしていた。
 また、小1のころ初めて床屋でなく美容院に連れて行ったときのこと。仕上げに「かっこよくセットしてあげるね」と美容師さんが言って、整髪剤をつけた。すると、ミツキは泣きだした。どんなに怒られても泣かないミツキが泣き出したので、私は驚き、美容師さんは凍りついた。再度シャンプーをしてもらい漸く落ち着いた。

「髪になんかつけるのは、女のすることだ」

「そんなことないよ。パパもつけるよ」

「ぼくはまだ、子どもなんだよ」

 整髪剤で泣く子が、女装などできるはずがない。

「6年生は女装だよ。できる?最悪どうしても嫌ですって断ってもいいけど、多少の気まずさはあるよ」

 ここで、パパがペンと紙を取り出して言った。

「野球を始めたらどんなことがあるか一通り分かってきたわけだから、一度、メリットとデメリットを書き出してみようよ」

 ミツキはパパの方を向き、姿勢を正した。

「まずメリットは?」パパの仕切りで家族会議開始。

「ノジと休みの日も会える

 監督もコーチもやさしい

 先輩もおもしろい

 クリスマス会がある

 運動会のあとにバーベキューもある

 合宿も楽しそうだ

 あと何があるかなあ? ノジと会える」

「それはもう最初に言った」

 呆れた。一番大事なことが出ていない。

「えーっと、ノジがいなくても野球は楽しい」

「やっと出たな。できればそれを一番に言ってほしいところだがな」

「じゃあ、デメリットは?」パパの仕切りで再開。

「家族で出かけられなくなる」

「そうだね。リオがかわいそうだから、リオに感謝して、優しくしてあげてね」

「ママが大変になるかも」

「いいよ、私のことは。ミツキが一生懸命なら、ママも一生懸命やる」

「ダンスと女装がある」

「じゃあ、入部しない?」

「ううん、イヤだけど、いつもママが言うように、おもしろがってやってみる」

「なるほど、そうだね」

「野球の道具が高い」

「半年間がんばって続けてくれればいいよ」

「うん、半年は絶対続ける。デメリットはもうないよ」

「野球の練習が土日祝とあることに不安はないのかな?」

「うん、それは全然ない」

「じゃあ、入部で決まり!」

 私とパパの声が重なった。

「うん、よろしくお願いします」

 こうして、ミツキのレッドウィングス入部が、決定した。

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