スクールカウンセラー

 9月下旬、待ちに待ったカウンセリング。相談室は、1階保健室の隣だった。そして、ミツキの教室も同じく1階だ。予約時間がちょうど授業中だったので、生徒に会わずに済んでほっとした。カウンセリングに来ていることをミツキに知られたくなかったのだ。

 スクールカウンセラーの先生は、山崎先生という50代の男性で、まるくて大きなゴム風船のような体型と、眼鏡の奥の小さな瞳が印象的だった。

 WISC-Ⅲの結果表を見せながら、ミツキのこれまでの成長を詳しく伝えた。山崎先生は、私の話をメモに取りつつ、何度も頷きながらひたすら聞いてくれた。そして、ときどき「うん、傾向あるなあ」と相槌を打った。私がすべて話し終えると

「お母さんがこれまでしてきたことは、ミツキくんにとって大成功でしたよ。そうでなければ、もっとさまざまな場面でつまずきが出ていたと思います。ここは落ち着いた地域なので、人に恵まれたこともよかったですね。この学校の先生も生徒も他の地域では考えられないほど、落ち着いていますから。

 今、ミツキくんは自立しようとしています。お母さんはさみしいでしょうが、役目を終えるときが来ていると思いますよ」

 ミツキは「やりたいこと」と「やりたくないこと」のふり幅は大きいが、「やりたいこと」は一生懸命がんばれるのだから、見守りに徹しようとのことだった。

 私は子どものころから『ドラえもん』に出てくるのび太のママが嫌いだった。のび太がテストで0点を取ったり、寝坊をしたり、忘れ物をしたりするのを、のび太のママは叱ってばかりいる。なぜこの母親は、子どもを叱らずに済むようにサポートしないのだろうか。塾に入れるなり、自分で教えるなり、早寝を促すなり、忘れ物チェックをするなり、親としてやれることはたくさんあるはずだ。私は子どもながらに、こんな母親にだけは絶対にならないと思っていた。

 そんな思いからこの12年間ずっと、ミツキと二人三脚で歩んできた。ままならないことばかりで悩むことも多かったが、それ以上に喜びも多かった。

 山崎先生の言う通り、これまでミツキの自立を願ってがんばってきたのだから、中学生となった今、一歩引いたところで見守り、応援する立場になるべきなのだろう。定期試験前の学習の様子や試験結果を考えると、自立はまだ難しいように感じたが、スクールカウンセラーの先生が言うのだから、見守りに徹した方がいいのだろう。

 小学5・6年生の担任の松本先生が言った「ミツキ君は勉強ができないということはないと思いますよ。特に理科と社会はとても得意でした」という言葉の後押しもあり、ミツキの自立を応援するよい機会だと思った。

 役目を終える喜びと不安とさみしさからだろうか、ミツキとの12年間が一気に映像となって甦ってきた。

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