夏休み

 早速、中学校担任の持田先生を訪ね、WISC-Ⅲの結果表を見せながら、ミツキのこれまでの成長を伝えた。

「中学生になり、周りのお子さんの精神的な部分が急速に成長しているのに対して、ミツキは遅いように感じています。申し訳ありませんが、先生方や他の生徒さんにご迷惑をお掛けすることが多々あると思います。家庭でもしっかりと指導していきますので、何かありましたらすぐにご連絡ください」

 持田先生は、初めはWISC-Ⅲの結果に少し驚いたようだが、納得のいく部分もあるといった様子だった。

「ミツキ君のことは他の先生方にも伝えて、どのような指導がいいか話し合いながら進めるようにします。先日の三者面談でお話した件で、お母さんはとても心配されたのだと思います。確かに難しい面があるということが分かりましたが、ミツキ君は、とても明るく元気で交友関係は良好です。また、先生から注意されるとすぐに素直に反省します。素直であれば、あまり心配はいらないと思いますよ。子どもの成長はさまざまです。入学当時にずいぶん幼いなと感じる子どももたくさん見てきましたが、卒業するころには皆それぞれ大きな成長をしています」

 持田先生の言葉に救われた気がした。

「学校にはスクールカウンセラーがいますので、もし不安なことがありましたら、カウンセリングを受けてみてはいかがでしょうか」

 ミツキのことでカウンセリングを受けるのは丸4年ぶりだ。小学1・2年生のころは月に一度受けていた。もうカウンセリングを受けることはないだろうと思っていたし、思いたかった。

 カウンセリングが嫌いなわけではない。話を聞いてもらえれば心が軽くなる。でも、私が一番に願っていたのは、カウンセリングを受けるような不安感のない生活。残念ながらそれは叶わなかった。

 カウンセリングの予約日は、夏休み明けだった。夏休み中、この悶々とした不安な気持ちでミツキと接するかと思うと憂鬱だった。

 ところが過ぎてしまえば、それは取り越し苦労にすぎなかった。夏休みに入ると、ミツキは、毎日部活に精を出した。3年生の引退試合を機に、2ミリのスポーツ刈りにして見た目も球児らしくなった。遠征のために朝早く家を出ることも多く、5時起きの日もあったが、自分で起きて出かけて行った。

 普段の登校時は、なかなか起きてこない。起きてもぼーっとしているし、朝食に時間がかかるし、洗面所で無駄に鼻をグリグリするから鼻血を出すしで、遅刻ギリギリだ。本来なら7時50分に家を出れば、ゆとりをもって学校に到着する。それをミツキは8時10分に家を出るので時間に余裕がない。それにもかかわらず、ゆったりと歩いていく後ろ姿を許しがたい気持ちで見送っていた。

 学校の授業はやりたくないこと。学校の部活はやりたいこと。ミツキは、やりたくないことはやらないスタンスの子だ。同じ学校のことでも、授業と部活とではミツキにとって違いは大きく、朝の行動にこれほどの差が出てしまうのだ。本来なら、この差に文句をつけたいところだが、夏休み前の三者面談のショックが大きかった私にとっては、やりたいことはこんなにがんばれるのだという、ポジティブな感情に置き換えられた。

 部活に出かける様子を見ていると、とてもたくましく感じ、このまま自立へ向かうのではないかという期待が高まった。

 夏休みの宿題もそつなくこなしたので、夏休み中は、ミツキとの大きな衝突もなく過ごすことができたのだった。

 しかし、夏休み終了後、当たり前のようにミツキの愚図っぷりは再始動した。

 更に、夏休み直後の期末試験は中間試験以上の酷さで、もはや笑うしかなかった。主要五教科も酷かったが、副教科は目も当てられないほどだった。保健体育「0点」を目にしたときは、思わず「0点てマンガの世界だけじゃなくて現実にも起きることなんだね」とおかしな感想を言ってしまった。

 答えが分からず埋められなかったの思いきや、解答欄はほぼ埋まっていた。その上でのレ点の嵐だった。

「答えと解答欄が全部ズレちゃったの?」

「いや、全力で答えて全問間違えたということだな」

 あまりにも自信満々で言うので、潔ささえ感じてしまった。

 二週間後に控えたカウンセリングが待ち遠しく感じた。

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