検査結果告知③
「いつ、落ち着くの?」
大人になると症状が落ち着くと話すと、ミツキは前のめりになった。
「うーん。わからない」
「17、18歳で良くなるわけじゃないの?」
「徐々に落ちついて、そのうちあまり気にならなくなるって感じだと思うの。でね、こういう結果がでていると、少しのがんばりでは、うまくいかないと感じることが多いと思うの。症状が落ち着いて振り返ったときには、成功体験に乏しいことが多い」
「うーん」
「では、成功体験を増やすにはどうしたらいいのか。小児神経科の先生は、薬の服用を勧めている。中学の養護の先生やスクールカウンセラーの先生にも勧められたの。」
「く、す、り」
「ミツキは、字をマスや行内に形を整えて書くのが苦手だよね。それもADHDの症状の一つなの。薬を飲んだら落ち着いてきれいに書けるようになる。例えば、アレルギー性鼻炎で、症状を抑えてくれる薬を飲むでしょう? そんな感じで、ADHDの症状を抑えてくれる薬があるの。ただね、すごく強いみたい。だから、副作用が出る場合があるの。出ない人もいる。飲んでみないと分からない」
「副作用ってどんな? 」
「頭痛・吐き気・食欲不振」
「ふふふ」
「いやだよね? 」
「うーん、けど・・・」
「食欲不振で痩せる人もいる」
「どのくらい減るの?」
「それも分からない。人によるから。やってみないことには。私が心配なのは、もし食欲不振になったとき、成長期の妨げにならないかということなんだ」
「えー、じゃあ、薬は嫌だ」
ミツキは、156センチと小柄なのだ。中学生での残りの2年間に懸けたいだろう。
「実はね、ママも正直なところ、薬には抵抗があるんだ。それで、ここ1か月でいろいろ調べて行き着いたのがこれ」
私は、『キレる・多動・不登校 子どもの困ったは食事でよくなる(溝口徹著)』という本を取り出した。
「この本は、栄養療法で多動とかをよくするという趣旨の本なんだ。栄養療法をやっている病院に行ってみない?」
突然の話の展開に、ミツキは戸惑いを隠せない。
「もちろん、病院へ行く前に、養護の先生とスクールカウンセラーの先生に話してみようとは思ってはいるけど、先生たちは知らないかも。日本では、あまり知られていないようなんだ。アメリカやドイツでは、進んでいるらしい。だから、日本の病院で採血するけど、血液をアメリカに送って調べてもらうんだって。その結果、何らかの食べ物がアレルギーを引き起こしていたら、その食べ物を摂取しないようにして、薬ではなくて、サプリメントで栄養補給をすることになるらしい。もしかしたら、小麦を除去するかもしれないから、その場合は、パンとかパスタとか食べられなくなるかもしれない」
「えー! パン? それは辛い」
「うん。でも、代替食品は何かあると思う。縛りがあって辛いかもしれないけど、薬を飲むよりは確実に安心だよね。効果の方は、薬と一緒で、やってみないと分からないけどね」
「うーん。疲れた」
「そうだね。疲れたね。全部伝えたから、ひとまず終わりにしよう。先生たちにも相談してみるね。ミツキもどうしたいか考えてみてね」
ミツキにとってこの告知は、青天の霹靂だったに違いない。相当疲れたようだ。床にごろんと横になり、静かに目をつぶった。
文句の1つも言わずに、ただ淡々と受け入れたミツキ。心の内を知りたかった。
その後部活の時間になり、何事もなかったようにミツキは学校へ出かけた。
部活が終わり、帰宅したミツキは、すがすがしい表情をしていた。そして、私が予想だにしなかったことを口にした。
「ノジに全部話したぜ」
「え? お友だちに話したの? 」
「ノジには話しておいた方がいいと思って」
「あ、そう。ノジは、なんて?」
「おまえもなんだか大変だな。まあ、お互いがんばろうぜ、だって」
「そう。ノジ、いい子だね」
「そうだよ。ノジはいい子だよ」
私は、学校の先生やカウンセラーの先生以外には誰にもミツキのことを相談したことがなかった。ミツキの耳に間違った伝わり方をすることを避けたかったからだ。
ミツキも誰にも言わないと思っていたので、耳を疑った。ひとりではで抱えきれなくて、野島くんに話したのだろう。野島くんらしい返答が、ミツキの心を癒してくれたに違いない。