きかんしゃトーマス part 2
ミツキの『きかんしゃトーマス』愛が止まらないので、3歳の誕生日に富士急ハイランド内にある『トーマスランド』に連れて行った。
新宿から高速バスに乗って約2時間半。往復とも高速バスだが、帰りはトーマスのラッピングバスなのだ。ミツキはまだそのことを知らない。
富士急ハイランドに着くと、絶叫コースターには目もくれず、園内マップを片手にトーマスランドへ。
トーマスランド入口に一歩足を踏み入れると、そこはまさに『きかんしゃトーマス』の世界。テーマパークが初めてのミツキは、あちこちキョロキョロ見回して、その世界観に驚いていた。
東京ディズニーリゾートにわりと近いエリアに住んでいるので、ミツキの友だち家族はよく出掛けていた。しかし、ミツキは長時間並べないだろうと思い、我が家は一度も行ったことがなかった。ミツキには近くの公園で、彼のやりたいようにさせてやるのが一番だった。
今回のトーマスランドは、ミツキにとってテーマパークを今後楽しめるかどうかの第一関門といっても過言ではなかった。
休日ではあったが思ったほどは混雑しておらず、長くても20分並べば順番が回ってきた。普段のミツキなら列を見ただけで逃げ出すところなのだが、トーマスに乗りたい一心で文句ひとつ言わない。自分の興味のあることなら耐えられるようだった。
エントランスから順番に目にとまったアトラクションに次々と乗り、一番奥にある『トーマスのパーティーパレード』の前にやってくると、ミツキの足がピタッと止まった。鋭い視線で見つめる崖の上には『いわのボルダー』がいた。ボルダ―が鎮座する山と開拓中の採掘場。ここはミツキがトーマスの話の中で最もお気に入りの場所を模していた。
「ここは危ないからやめよう」
ミツキはひどく深刻な面持ちになり、喉の奥から絞り出したような声で私に訴えかけてきた。
「ミっちゃん、ボルダ―が追いかけてきたりしないから安心して。貨車に乗ってこの中をグルって回ったら、最後に車庫に着くの。そこには、トーマスと仲間たちが全員揃って待っていてくれるんだよ。このアトラクションが一番子どもたちに人気なんだって」
トーマスランド体験済みのミツキの友だちは、口をそろえてこのアトラクションを推していた。
ミツキが拒んだ理由は、ここが室内のアトラクションだということもあると思う。全貌が見えないのだ。見えていないところで恐ろしいことが起きるかもしれない。ましてやボルダ―がいるのだ。
実はこれまで乗ってきたアトラクションは屋外にあるので全貌を見ることが出来た。乗り物のコースの確認をした上での搭乗だった。
ミツキは何が起こるか分からない不安をひどく嫌った。
絵本の読み聞かせをするときでさえ、初めて読む本の場合、私が読み始める前にミツキが全ページをパラパラとめくっての確認が必要だった。どんなことが起きる話なのか知っておきたいようだった。
係りのおにいさんにもボルダ―が転がってこないことを確認し、なんとか列に並ぶことができた。
神妙な面持ちでじっと黙って並ぶ。順番が近づき、次の貨車に乗ると分かると
「怖くなってきた」
とつぶやき、ジタバタしはじめた。貨車がやって来たのでひとまず抱えて搭乗するも、席に座ろうとしない。係員に謝って貨車から降りると、まるで小猿がキキキィと言いながら慌てて木に登るかのようにパパの足元から腕の中に這い上がる始末。
乗ってしまえば「なんだ、恐くなかった」と分かり、楽しい最後を迎えて「乗ってよかった」に変わると思う親心は、ミツキにとっては単なる押付けでしかなかったようだ。
バス停にラッピングバスが入ってくると、眠そうにベンチに座っていたミツキは跳ね起きた。バスに乗るとシートにもトーマスと仲間たちがプリントされていた。席は運転席の真後ろだった。
新宿までの約2時間半、ミツキの興奮は冷めることなく、ずっと一番お気に入りのトーマスの歌を歌い続けた。
トーマスのサウンドトラックCDには、場面に合わせたさまざまな曲が収録されている。中でもミツキのお気に入りは『じこはおきるさ』という曲。この曲の歌詞がえげつない。
事故がほらおきるよ。いきなりくる
調子のってやってるとバチがあたる
事故がほらおきるよ
いい気になってると
そうさ、よそ見してるその時に
事故はおきるものさ
こんな歌詞の歌をフルで何度も繰り返し歌い続け、歌の途中で入るセリフ部分の
まぁ、自信過剰だと集中力なんてたいがい散漫になっちゃうからね
の部分では、特に声が大きくなった。
運転手さん、運転し辛かっただろうな。ごめんなさい。