私の大好物はビール

 私の大好物はビールである。心底好きだ。体調不良と妊娠中と授乳中以外は、毎日欠かさずせっせと飲んできた。

 でも、もう飲まない。なぜなら、ビールの原料は麦だから。ミツキの遅延型アレルギーが落ち着いて、栄養療法が必要なくなったらまた飲めるようになるさ。一生飲めないわけじゃないんだから、やるなら徹底してやってみようと思ったのだ。

 とはいえ、アルコールフリーの生活はさみしい。ネット検索をしていたら、キリンの「のどごし生」は、原料が大豆たんぱくだと分かった。我が家では、ビールを飲むのは外食のときだけで、普段家で飲むのは、キリンの発泡酒「淡麗生」だった。「のどごし生」は第三のビール発泡酒よりも安い。私はビール感が楽しめればそれでよかった。そこで、夫に相談すると、意外にも夫が難色を示した。

「第3のビールにするくらいなら、ビールにこだわらなくてもいいじゃん」

 もうただただ驚きである。だが、考えてみれば夫は、私ほどビール派ではないのだ。夫はワインを提案してきた。夫婦で2種類のアルコールを飲み分ける贅沢は出来ない。しかも、ワインは高い。更に悪いことに、日頃ビールをグビグビ飲む私たちは、ワインをチビチビ飲むことはできず、1日1本開けてしまうだろう。これまでの我が家の1か月のアルコール代は、10,000円~12,000円だ。超えるわけにはいかない。それでなくても、小麦の代替品は高価で食費を圧迫することになるのだから。

 そこで、私は梅酒を提案した。甘いのが難点だが、炭酸水で割ればシュワシュワ感が楽しめる。夫はストレートだ。チョーヤの「さらりとした梅酒」は約1,000円なので、月に6本消費したとしても、今までよりもアルコール代が安くなる。ときどき、どうしてもビール感を味わいたいときは「のどごし生」を飲めばいいのだ。

「別にママが小麦アレルギーな訳じゃないし、ミツキにビールは関係ないんだから、飲んだっていいんじゃない?」

 ある日、夫が不思議そうに言った。だが、私はそのつもりはなかった。

 ミツキは遅延型アレルギーであり、アナフィラキシーのような即効性のアレルギーではない。だから、重篤な症状もでない。でも、食べ続けるとよくない症状が出る。それでも、おいしいし好物だから食べたい気持ちは常にある。そんな環境の中で、我慢するのはしんどいと思うときもあるだろう。

 特に、友だちと一緒のとき。みんなが食べているのに自分だけ我慢できるだろうか。ときには、周りに流されることもあるだろう。そして、ミツキは正直者なので、きっと私に食べたことを話すだろう。

 もし、私もミツキと一緒にがんばっていたら、周りに流されてしまう気持ちや流されそうになってしまう気持ちを理解してあげられるに違いないと思ったのだ。子どもに一方的に約束を守らせたいのであれば、親はその約束を守ることの大変さを知っておくべきだと思った。そこを互いに共有していれば、仮にミツキがそれらを食べたと聞いても、「そういうときもあるよね。またこれからがんばろう」と言ってあげられる気がした。

 小麦・乳製品フリー生活を始めて1年ほどたったある日、ミツキは友だちとディズニーシーへ行った。そのころのミツキは、この生活にすっかり慣れていた。それどころか、長年悩まされていたアレルギー性鼻炎がすっかりよくなり、ニキビ・肌荒れや口内炎といった症状も軽減されたおかげで、率先してこの生活を送っていた。

「ディズニーで何食べたらいいんだろう。小麦が入っているものばかりだと思うんだ」

 ディズニーの公式サイトを調べてみると、ほとんどのレストランでアレルギー食を提供していることが分かった。

「うーん。でもさ、友だちと一緒に行動しているのに、なんか面倒だな」

「そうだね。確かにね。みんなアトラクションにたくさん乗りたいだろうから、ぐずぐず出来ないよね」

「それな。ていうか、レストランなんか入らないよ。並びながらなんか食べるな」

「じゃあ、ポップコーンとスモークターキーレッグを何本も食べればいいじゃん」

「それな!」

 その1週間後、今度は私とリオがディズニーシーへ行った。リオがピザを食べたがったのでピザのあるレストランに入った。私の分はアレルギー除去食を頼もうとキャストに相談すると、アレルギー食担当がやって来た。担当者のタブレットでアレルギーの登録をしてメニューを選択した。ここまでで約10分経過。

「では、これからこちらのお料理を作ります。お時間20分ほどかかりますがよろしいでしょうか?」

 となりに立っているリオが不満感を漂わせた。リオはさっさと食事を済ませてアトラクションに乗りたいのだ。私は諦めて断った。通常の列に並んでリオはピザを、私はドリアを頼んだ。その店は、ピザとスパゲティーとドリアの店だったので、1番小麦量が少なそうなドリアにしたのだ。

 ミツキに「レストランでアレルギー除去食をちゃんと頼んで食べなさい」などと言わなくてよかったと思った。

 一緒に体験してみないと分からないことはたくさんある。一緒に体験するからこそ分かることもある。

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