葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

【こぼれ話】自主性⑦

  夏休み8日目、朝9時。私はミツキとリオを起こし、テーブルに並んで座らせた。

「家事は私の仕事でね、私自身は当たり前のこととして毎日やっている。でもね、それをあなたたちが、やってもらって当たり前、自分には関係ないと思ってはいけないの。
 家事はママの仕事でしょう? なんで風呂掃除を毎日させるの? せっかくの休みの日になんで早起きしてゴミ出しをさせるの? 掃除機がけ面倒くさい。自分の部屋だけ特別にきれいにしたい。食器洗いしたくない。あなたたち、そんな風に思っているでしょう?
 でもね、自分だってお風呂に入るし、ゴミを出しているし、食器を使っているし、家を汚しているよね?
 自分に関わりのあることなんだから、なんでも人任せにばかりしないでほしい。せめて頼まれたことだけでも、気持ちよく心を込めてやってほしい……
 と言う話は、今までに何度もしてきた。でも、改善はされなかった。だから、やむを得ず罰則を設けることにしました」

 2人は不安そうにこちらを見ている。

「まず私に1000円払ってもらいます」

「えっ! どういうこと?」2人の声が重なる。

「私が1日にあなたたちに提供するサ-ビスの代金です。食事、洗濯、掃除などのこと」

「うーん」不服そうな2人。

「あなたたちに課題を出します。その課題がクリアできた日は、この1000円を返却します。1つでもクリアできなければ没収します。そして、翌朝また1000円払ってもらいます。つまり、クリアできれば、あなたたちに損はありません。スキー板レンタルの保険金なんかと同じシステムです」

「クリアできればいいんだな」とミツキ。

 2人の表情が明るくなる。

「そう。課題をクリアさえすればいいのです」

「課題って?」リオが不安そうに言う。

「では、課題内容を発表します」

  • 8時までにゴミ出しをする
  • 私の依頼に快く、即着手する
  • 5時までに風呂掃除をする

「課題は、たった3つの簡単なことです」

 2人とも余裕の表情を見せている。

「余裕かなあ? 逆に言えば、今までできずにいたあなたたちにとっては、難題だと思うけど……」

 戸惑う2人。

「まず、ゴミ出しは、前日に誰に頼むか言うから自分で起きて出してきてね。時間厳守」

 うなずく2人

「次に、私の依頼には、快く即着手してね。あなたたち、コレできていないよ。
 即とは1分以内ね。1分以内に着手できない理由があるときは、要相談ね。相談せずに1分経過したらアウトだから。2人ともスマホばかりで、なかなか着手しないよね。後回しにして忘れるときもあるから気をつけてね。
 リオは必ず嫌な顔するよね。与えられた仕事は心を込めてやりなよ。おざなりはダメ。
 ミツキは、自分の部屋だけ特別扱いして過集中になってはいけない。仕事の質は平等に」

 2人とも決まりの悪い顔をした。

「私に言われたことに身に覚えがあるでしょう? これからはそこに注意して、自分を律して欲しいの」

「分かった」2人の声が重なる。

「最後に風呂掃除。これは1番大変だよ。なぜかというと、今日は誰が洗うって私が決めないから。とにかく5時までにミツキかリオがやって。バカみたいに牽制し合っていて5時過ぎたら、連帯責任で2人ともアウトだよ。昨日もオレがやったとか、ミっちゃんやらなくてずるいとか、そういうバカバカしいケンカはやめて。まずは、常に自分がやるつもりでいて。外出とかで出来ないときは、予め互いに話し合う。どうしたら相手に受入れられるか考えて交渉しなよ」

 顔を見合わせる2人。

「自分が洗ったときに、相手に対して『やってやった』という上から目線の感情は、結局は自分を苦しめるよ。自分の行動によって人助けが出来たことに喜びを感じると気持ちがいいものだよ。
 洗ってもらった方は、しっかりと感謝の意を表すと、互いの関係がスムーズになるよ」

 うなずく2人。

「2人とも自分本位だし、やってもらうことばかりに幸せを感じている。でもね、こうしてお互いに協力し合ううちに、やってあげることの幸せに気付くと思うよ」

 曖昧な表情の2人。

「情けは人のためならず、ってどういう意味かリオ分かる?」

「ん? 情けは人のためにならない?」

「そう思うよね。でも違うんだ。人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、やがてはよい報いとなって自分に戻ってくるという意味だよ。例え、その相手から直に返ってこなくとも、巡り巡って必ず返ってくるんだよ。不思議だけど、世の中はそういう風に出来ているんだ。
 ミツキとリオには、自分の我を控えて、人の喜びを自分の喜びにかえてほしいんだ。
 その第一歩として、1000円を没収されないようにがんばって。
 理解した? 何か質問はある?」

「いや、大丈夫」揃って答える。

「はい、では以上です。解散」

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