【こぼれ話】自主性⑧
課題の説明後ミツキとリオから1000円を預かり、1日目がスタートした。ゴミの日ではないし、特に2人に手伝いを頼むこともなく時間は過ぎていった。
夕食の支度をしていてふと時計を見ると、5時過ぎだった。
「あ、そう言えば、お風呂掃除済んでる?」
「リオがやってくれた」とミツキ。
振り向くと、どや顔のリオがいた。
「リオ、ありがとう。助かるよ」
その日の晩。
「今日の課題クリアです。お疲れ様。1000円お返しします」
翌朝。
「はい、では今日の分の1000円頂きます」
「なんだか、めんどくせーな」
「面倒だけど、これが必要なんだよ。朝払ったお金が、自分のがんばりによって夜に返ってくる」
「ふーん」
2日目は、リオに朝食の食器洗い、ミツキに掃除を頼んだ。2人とも快く、即着手した。その後、昼過ぎに出かけるミツキは、予めリオに風呂掃除を頼んでいた。
3日目、ミツキは夕方出かける前に風呂掃除をしてから出ていった。
毎日ミツキとリオは、互いに折り合いを付け、とてもスムーズだった。
今まで何度となく注意してもできなかったことが、罰を設けたことでこんなにもあっさりと解決してしまうとは。なんだか複雑な気持ちだ。
リオは順応が早いから想定内だったが、ミツキに関しては想定外だった。
「ミツキがこんなに積極的にこの課題に取り組むと思わなかったよ。なんてったってミツキは『なんでも受入れちゃう系男子』だからさ」
「うん、そうなんだよね。オレも驚いてる。でもね、このスパンが短いっていうのがいいみたいなんだよ。長いとオレは、どうでもよくなっちゃうんだ」
「なるほど、やっぱりそこか」
中島美鈴著『もしかして、私、大人のADHD?』に「ADHDの人は、すぐに成果が得られるものには魅力を感じてやる気を出すことが出来ますが、成果が出るまでに時間かかかるものには急激にやる気をなくしてしまうことが、脳の報酬系の研究から分かっています。このことを専門的には『報酬遅延勾配が急である』と言います」とある。
毎日結果がすぐ出るから成功したのであって、7000円前払いの1週間単位だったら失敗しただろう。
また、ビンにビー玉を集めるポイント制などが頓挫したのも、この理由だろう。
つまり、この方法を用いれば、他にもミツキの抱えている問題をクリアできる可能性があるということだ。
このお手伝い計画を初めて2週間過ぎた。今のところは、とても順調だ。最近では、夜と朝の1000円の受け渡しは省略して、目の着くところに2000円を置いたままにしている。頃合いをみて完全に返金し、罰がなくともまっとうできるか確認したい。
ゴミ捨てと風呂掃除は、子どもたちが自分の仕事として進んで取り組み、それ以外は頼まれたら快く即着手することが、現段階での課題。
次の段階として、頼まれなくても状況を判断して自主的にやれるところまで持って行きたい。