葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

クイズ付宣言書の感想

 卒業式にもらったミツキからの手紙は、本人も自覚しているようにズレた代物だった。

 無事に高校受験を乗り越えて中学校を卒業するにあたって、陰で支えてくれたであろう保護者への感謝を綴ることを学校側は意図していただろう。おそらく多くの生徒が、3年間を振り返り、うれしかったこと、辛かったこと、がんばったこと、そして、それにまつわる親の言動に助けられたエピソードを盛り込み、感謝の言葉を綴り、最後に今後の抱負を記し、これからもよろしくお願いしますと締める手紙を書いたことだろう。

 ここまで完璧でなくてもいいから、少しでも中学校生活を振り返る文章を入れて欲しかった。ミツキが感じたうれしかったこと、辛かったこと、がんばったことがなんだったのかを私は知りたかった。野球部でどんなことを培ったのかを知りたかった。

 また、ミツキの3年間に良くも悪くも両親の出番はありませんでしたか? と問いたい。一緒に勉強した日々や栄養療法の日々は、ミツキにとっては記憶から消したいほどの迷惑行為だったのだろうか。それとも、記憶にも残らないようなことだったのだろうか。

 今後の抱負が書かれていたことは、うれしかった。同時に、ミツキが日々の生活の中で「時間の使い方」に困難を感じていることがよく分かった。上手に時間を使いたいという気持ちは常にあるが、行動にうつせないジレンマ。こちらとしては、気持ちがあるならやればいいのにと思うが、それがどうしてもできないのがミツキなのだ。やりたくないことに対して気持ちを奮い立たせられない。

 野球部引退後は、4時には帰宅。制服を脱いで手を念入りに洗った後、床に寝転ぶ。何をするでもなく時間が過ぎていく。5時になり風呂掃除と風呂焚きを頼む。返事はいいが、30分は動かない。何度か促してようやく立ち上がる。5分もあれば掃除は完了するはずだが、15分はかかる。その間、水は出しっぱなしだ。

 私は、ミツキに本当は家事を頼みたくない。何をやらせても時間と光熱費がかかり過ぎるからだ。何度注意しても自分スタイルを変える気配はない。

 掃除後約15分で風呂は炊き上がる。リオが勉強中なのでミツキに風呂を勧めるが、すぐには立ち上がらない。ようやく立ち上がったと思えば、今度はトイレに入って20分は出てこない。6時半ごろやっと入浴となる。ここからがまた長い。7時半には出るように約束するも、守れた試しがない。何度も促し、やっとリオと交代。リオは20分で出てくる。リオが入浴中に髪を乾かしてしまえばいいのに、ミツキは化粧水をたっぷり付け続ける。リオが身支度を整え食卓に着くころ、ミツキはドライヤーをかけ始める。本来なら7時から7時半には食事を始めたいが、いつも8時になった。

 9時から勉強を始めるが、さほど進まないまま2時間が経過して、勉強終了。身長を伸ばすためにも早く就寝して欲しいから11時までとしているのに、なかなか寝ない。

 何度も活動計画表を作ったが、実行に移せない。ミツキの時間厳守の概念は、好きか嫌いかに委ねられている。好きなことはやりたいこと。だから、時間を守る。嫌いなことはやりたくないこと。だから、後回し。なかなか先に進まない。そんな自分に不便を感じているが、コントロールができない。

 学校で6時間授業を受けた後、家でも計画的に勉強するのは確かに大変なことかもしれない。しかし、そこをがんばるのが受験生なのだ。受験生の勉強時間が1日2時間だけとは情けない。それで満足していてはダメなのだ。部活を引退後、半年間は勉強にもっと向き合うべきだった。長い人生のうちのたったの半年間なのだから。

 時間の管理をしなければいけないと頭では重々分かっているのにできない。いつも今度こそがんばろうと思う。だからこそ、今後の抱負として手紙に書き記したのだろう。抱負として書き記したが、自分にはできないだろうと暗示もしている。

「ちなみに、あなたが思う多くの人を苦しめているモノはなんだと思いますか?」

「私は時間だと思う」

 ミツキにとってどれだけ時間の管理が難しいかが伝わってくる。

  私は、時間が人を苦しめているなどと考えたこともなかった。むしろ、私自身は時間を楽しんでいる。分刻みで物事をこなしているときの自分が好きだ。計画した時間通りに物事が進むと楽しくなる。

  ミツキを苦しめるモノが時間であるように、誰にでも1つは自分を苦しめるモノがあるはずだ。もちろん私にもある。私を苦しめるモノについて考えるとき、私はいつもこう思うことにしている。

「私は、私を苦しめるモノを克服するために、この世に生まれてきたのだ」

 だから、時間を制することは、ミツキにとっての人生のテーマなのだと思う。時間を制することができたとき、ミツキは大きく成長して、幸せを手に入れることだろう。

 だから、諦めることなく、知恵を絞って、立ち向かってほしい。

 一度読んだときは、少し残念な気持ちになったミツキの手紙だったが、何度も読み返すうちに彼の苦悩が伝わり、そのうち、むしろ感慨深い良い手紙だと感じた。

 ミツキの手紙はこれでいいのだと思った。私はまだまだ未熟で、つい目先のことに囚われがちになってしまうけれど、じっくり読んだら良さが分かった。

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