「ミツキ」名前の由来

 妊娠36週目に緊急入院した私は、1日中栄養剤を点滴し続けた。動きにくいし、痛い。でも、そんな弱音を吐いている場合ではない。

 逆子だと思っていた胎児は、いつの間にかさらにひどい「横位」に近い状態となっていた。左横隔下あたりに胎児の頭がすっぽりとはまり、右下腹部あたりに足があった。当然、普通分娩は不可能となり、38週目に帝王切開手術をすることとなった。残り2週間でできるだけ胎児を大きく育てることが、私ができることのすべてだった。

朝・昼過ぎ・夕方・就寝前の1日4回、看護士が来てはお腹にパッドを二つ貼りつけ、胎児の心音を計測する。

ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク

 4人部屋のどのベッドからもこの音がして、けっこうな賑わいとなる。

 入院してちょうど1週間目の朝食後、いつものように心音の計測をしていた。胎児の規則正しい心音を聞いていると、いつも眠くなってしまう。うつらうつらしていると、急にバタバタバタと医師と看護師がやってきた。

「赤ちゃんの心臓の音が弱まっています。すぐに産みましょう」

 頭の中が真っ白になって、返事もままならないうちに、シーツごと体を持ち上げられ、ストレッチャーに乗せられ、手術室へ。ストレッチャーの上であおむけのまま、猛スピードで流れていく天井を眺めているうちに、これから手術をするのだという実感がやっと湧いてきた。

「赤ちゃん、もうすぐ会えるからがんばって。元気に生まれてきて」

 手術中は、麻酔が効いていて下半身の感覚はほとんどなかったが、医師が下腹部を強く引っ張り上げ、腰が浮くのが分かった。

 その直後、元気なかわいらしい産声が聞こえてきた。

「無事に生まれました。元気な男の子ですよ」

 私の顔の前に産まれたばかりの赤ちゃんを寄せてくれた。

 元気に産まれてきてくれた赤ちゃん。

 胎児のサインを見逃がさずに処置してくれた医師と看護師のみなさん。

 感謝の想いが一気にこみ上げて涙が溢れた。止めどなく溢れる涙を看護士が何度もぬぐってくれた。

 抱え上げられたその赤ちゃんは、ふんわりと優しい光に包まれていた。帝王切開のため産道を通らずに出てきたせいだろうか、赤ちゃん特有のくしゃっとした顔ではなく、端整な顔立ちだった。

「お母さん、縫合するので麻酔して少し眠りますよ」

 薄れゆく意識の中で

『赤ちゃんって光に包まれて生まれてくるものなんだな』

と思った。

 人が光りながら生まれてくるとは知らなかった。

 この子の名前は「光る希望」と書いて「ミツキ」にしようと思いながら眠りについた。

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