タイムカプセル①

 2021年2月、私は50歳の誕生日を迎えた。

 年を重ねるにつれ、誕生日を手放しで喜べなくなるのが人の常だ。60歳以上になると還暦、喜寿、傘寿など長生きのお祝いムードになるが、50歳は「初老」とか「戦国時代の寿命」などと皮肉を言われがちだし、自虐する人も多い。

 しかし、私は50歳の誕生日を2年前から待ちわびていた。

 

 2年前、ミツキが高校に入学し、リオは小6、実父は亡くなり、私は暇を持て余していた。

 そこで、家中の物の棚卸しを始めた。

 

 今の家に住み始めたのは、ミツキが生まれる3か月前。身重の体での引っ越し作業は、お腹の張りとのタタカイだったことを懐かしく思い出す。

 使用頻度の高い物は棚の一等地に。思い出の品や使用頻度の低い物は、高い場所や奥の方に収納した。

 

 それから15年間、子どもたちの成長に合わせて一等地の物の配置替えは頻繁にしたが、使用頻度の低い物は手付かずの状態だった。

 記憶の隅に追いやられている品もあるはず。全ての扉を開け、次々と荷物を床に広げていった。

 引越当初は、使用頻度は低くとも大切に思っていた品々。しかし、15年ぶりに見ると何の魅力も感じない物が結構多い。迷うことなくサクサク処分。

 

 ふと、ベッドの下にも引出しが付いていたことを思い出した。

 そこには、横38×縦25×高さ12のこげ茶色の箱があった。中身がパンパンで上蓋が少し浮いている。

 箱の中身は、結婚式にまつわる思い出の数々だった。

 

・招待客から返信された招待状・電報

・お祝いの手紙・結婚証明書

・アルバムに収まりきらなかった写真

・式場との打合せ内容の書類・担当者名刺

・費用明細書を貼付した書類

・自分で作成した収支明細表

 

 改めて自分の細かさに驚きつつ、ひとつひとつ手に取りながら見ていく。

 すると、箱の一番底からA4サイズの青色のクリヤーブックが出てきた。

 それは、結婚以前の私の歴史ファイルだった。

 表紙をめくると、1ページ目には定期券が5枚貼付されていた。

 

・初めての定期券高校1年

・短大1年・短大2年

・1人暮らしの家から会社

・社会人最後の定期券

 

 ここまで揃っていると、社会人最初の定期券がないことが悔やまれる。

 次のページからは、

 

・高校の受験票

・高校の入学試験結果通知書

高3 2学期中間の個人成績表

大受験時の調査書

・短大の入学許可書

・短大の成績通知書

・初短期バイト(高2冬)の給与明細書

・初長期バイトの給与明細書(稼ぎまくり) 

・会社内定書・会社辞令・会社誓約書

・会社先輩からの励ましメモ

500円札

・各種検定の合格証

・退職金計算書

新聞切抜き(エッセイ優秀賞受賞)

 

 15歳から30歳までの私の記念品だ。

 なぜ成績表が高3の2学期中間のものだけを残しているのかがよく分からない。

 

 高校時代の私は試験勉強をあまりしなかった。500人中70位くらいでいいと思っていた。

 確かにその成績表をみると50位になっているので、好成績な方だ。しかし、高2は30位のときがあったと思うのだが。

 高2の担任は、試験直前に生徒1人1人の自宅に「激励電話」を架けるガサガサ声の熱血な先生だった。

 

 先生  激励電話です。娘さんお願いします

 母   娘は夜に勉強するとのことで、今は寝ています

 先生  起こして下さい。娘さんは夜中に勉強しません

 

 無駄に寝ていることは先生にはバレバレで、勉強せざるを得ない状態に追い込まれた。

 結果、2学期期末の数学は小学生以来の100点獲得。やればできるという自信が付いた。

 しかし、長くは続かない。担任が替われば元の木阿弥だ。

 そんな訳で、記念として残すべきは高2の成績表なのにと不思議に思う。

 

 短大受験時の調査書は、短大受験時に高校が発行した私の高校3年間の成績の記録だ。親展で短大側に提出したはずなのに、なぜか私の手元にもある。

 調査書の中で一番のお気に入りは、3年時の所見の欄だ。3年時の選択科目でとっていた小論文について書かれている。

「独創的な考え方で文章を書くのに優れている」

 これを初めて読んだときの喜びを覚えているし、今読んでもうれしくなる。

 これを機に文を書くことが好きになった。誰に読ませるでもなく、エッセイらしきものを書き溜めていった。

 

 そして、結婚直前に応募したある新聞社のエッセイコンテストで優秀賞を受賞した。

 新聞の切抜きを見るたびにニヤける。

 そんなわけで、今も趣味として思ったことを書き続けている。

 

 懐かしい気持ちでクリヤーブックを捲っていくと、最後のページに見覚えのある懐かしい封筒が入っていた。

「1998.5 → 2021まで封印」

 手に取ってもしばらくは何だか分からなかった。

 なぜ2021年なのだろうと考え、それが私の50歳になる年だと気付いた。

 27歳の私が50歳の私に宛てた手紙だった。

 

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