【家族の話】散歩中の会話①
父との海岸堤防散歩は、私が中学生から25歳で独り暮らしを始めるまで続いた。続いたといっても、そう都合が合うものでもなく、回数でいったら20回程度だろう。
私は普段はおしゃべり好きだけれど、父とはほとんど会話をしない。何もしゃべらないのが心地いいのだ。
父に起こされて、車に乗って、海を見ながら散歩して、また車に乗って家に帰るまで、基本的には必要最低限の会話のみだ。
だからこそ、父との数少ない貴重な会話は、よく覚えている。
春、海を見ながら歩いていると、テトラポッドのすぐ先を魚の大群がグイグイ泳いでいるのが見えた。父に聞くと、それがボラになる一歩手前の魚だと教えてくれた。
「ボラは、稚魚をオボコっていって、成長するとイナッコ、スバシリ、イナ、ボラになって、最後にトドって名前になる出世魚なんだよ」
「あー! トドって家にある魚拓の魚じゃん」
「そう、あれ釣るの重くて大変だったんだぞ」
「お父さん、出世魚の一番大きいの釣ってたんだね。やるじゃん」
「出世魚の一番最後だから、トドのつまりって言うんだよ」
「おぉ、なるほどぉ」
「今泳いでいるのがイナで、鯔背(いなせ)の語源だよ。水面から魚の背中が出ているのが、粋な男の背中みたいでかっこいいだろう?」
私は鯔背な男たちの背中を思い浮かべた。お祭りで見かける上半身裸(クールポコ。の小野まじめさんみたいな)で威勢のいい男性が、徒党を組んで歩いている後ろ姿。
「おぉ、確かに! 」
月日は流れ、ミツキやリオとの散歩中、我が家の目の前を流れる運河にも春先になるとイナの大群がやって来ていることに気付いた。私は子どもたちにも鯔背の語源を自信満々に説明した。
しかし、今日間違いに気付いてしまった!
文を書くに当たり、念のため鯔背を調べてみた。
「イナ」は若い衆の月代(前頭部から頭頂部にかけての、頭髪を剃りあげた部分)の青々とした剃り跡をイナの青灰色でざらついた背中に見たてたことから、「いなせ」の語源とも言われる。「若い衆が粋さを見せるために跳ね上げた髷(まげ)の形をイナの背びれの形にたとえた」との説もある。
あはは😆 なんかちょっと違う。
ミツキとリオにも訂正しておかないと……
追加の思い出ができたなあ。
お父さん、ちょっと違ってたよ~。でも、当時の私の理解力が足りないだけだったら、ごめんよ。
次回も、散歩中の会話です。