【家族の話】中学受験後日談②

 中高生時代の私は、敢えてダンスのことは思い出さないようにしていた。レッスンに通えないのならば忘れるしかない。自分でレッスン代を稼いで、ダンスを習う日を夢見ていた。

 

 少しでもダンスに近いことがしたいため、中学では体操部に入部。完全に新体操と勘違いしていた。

 跳び箱と平均台は怖いが、床は好きだった。怖がりながらも得意分野なので上達が早く、毎日が楽しかった。

「中2からは塾に通うから部活は退部ね」

 中2に進級する直前、母が突然言った。

「また?」小5の夏の悪夢再来だ。

 体操に夢中とまではいかないが、部活の友だちや先輩との関係が良好なので辞めたくない。しかし、それは許されなかった。

 私は「技が怖いから体操はもういいや」と自分に言い訳をして退部。仲のよかった先輩との接点も絶たれてしまった。

 

 今思うと、私の高校選択基準は、あまりにも短絡的だった。

 分厚い『高校受験案内』の本から自分にあった偏差値の私立高校をピックアップ。その中から①大学付属校②共学校③繁華街近辺④通学1時間圏内の4つの条件で絞った。

 選択時の私は学校内での生活よりも、場所や交通の利便性に重きを置いていた。

 だから入学後に初めて、女子の部活がバレーボールとテニスしかないと知って落胆した。私は球技が大の苦手だ。そこで、プレーヤーを諦めて興味があったマネージャーになった。

 マネージャーは良い経験となったので、結果オーライではある。

 

 短大に入学して数日後、バイトの面接からの帰り道、以前習っていたダンス教室の先生にバッタリあった。こうして私は、一日のうちにバイト先とダンスの復帰が決定した。

 ダンス教室では、懐かしい友だちと再会。ずっと続けていたみんなは、とんでもなく上達していて、うらやましかった。

 

 バイト先は、九段下の割烹料理の店だった。店長と女将さんには、当時6歳のJちゃんという娘がいて、ダンスを習っていた。

 私は店長と奥さんに家族の一員のようにかわいがってもらった。Jちゃんも私に懐き、たまらなくかわいかった。

 女将さんとJちゃんは、毎年私のダンスの発表会を観に来てくれた。

 私も、Jちゃんの発表会を欠かさず観に行った。

 社会人になった後も付き合いは続き、月日は流れていった。

 

 Jちゃんは中学受験をし、私立の女子中に入学するとダンス部に入部。それまで通っていたダンス教室を辞めて、部活のみで鍛錬を重ねていった。

 年に一度「全国中学校・高等学校ダンスコンクール」がメルパルクTOKYOで開催され、Jちゃんの学校も参加。女将さんからJちゃんが出演する時間帯を教えてもらっていたが、私は開始時刻の朝10時から最終の夜8時まで、中高全ての演技を鑑賞した。

 お尻は痛いのを通り越してヒリヒリし、目を閉じれば棒人間が踊る残像が見えたが、好きなことをしているときは疲れを感じない。

 

 参加校のほとんどが私立の女子校であることから、ふと自分の中学受験を思い出した。

 そこで、自分の大きなしくじりに気がついた。

 「ダンス部のある中学校を受験するという選択肢」

 中学受験の目的を「ダンスのため」と定めれば、必死になって取り組んだことだろう。

 ダンスコンクールの歴史は長い。ということは、私が学生のころもダンス部が盛んな中学や高校があったに違いない。それに、部活だったらレッスン代もかからないのだ。

 無知とは、なんと恐ろしいものだ。

 母を落胆させ、自分を責め、自信をなくし、ダンスに復帰できないどころか忘れようとした6年間。

 くすぶり続けた自分が、情けない。

 

 校則お下げ髪中学校のK、千葉県の女子中学校のR、割烹料理屋の娘のJちゃん。合格した彼女たちは、自分で人生を切り拓いていた。

 私は諦め、逃げるばかり。

 

 やりたくない、でも、やらなければいけないことは、生きていれば山ほどある。

 そんなことに直面したとき、まずはそれを詳しく調べることが必要だ。そして、対処法を考え、目標を立てる。

 あとは突き進むのみだ。

  • 自分で中学受験について調べる
  • ダンス部のある中学の存在を知る
  • ダンスために受験に打ち込む
  • 合格する
  • ダンス部に入部、上達

 これが理想だったな。これが出来ていたら、割烹料理屋のJちゃんのように、海外で活躍するプロのダンサーにだってなれていたかもしれない。

 まあ、タラレバはここまでにして……

 

 あのころの私は、母が考え直してくれることばかり望んでいた。しかし、それではどうにもならない。

 

 人の考え方は変えることは出来ない。

 変えられるのは、自分の考え方だけだ。

 

 それに気付いたのは私が24歳のとき。中学受験から12年後に気付き、やっと自分の足でしっかり歩んでいけるようになった。

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