葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

【こぼれ話】夏の香

 長い梅雨がやっと明けて今年も夏がやってきた。新型コロナウィルスの影響でいつもの夏とは大きく違うが、それでもやっぱり夏は好きだ。今年は旅行も帰省もするつもりはない。それでもなぜかワクワクする。

 4歳から11歳までは、習っていたモダンバレエの発表会。中学では部活と受験勉強、高校も部活、短大はバイトと再度始めたモダンバレエの発表会、その後も結婚するまでバレエを続けた。私にとって夏と言えば、何かに集中的にチャレンジするワクワクする期間で、その感覚が今も体に染みついている。

 数々の夏の思い出の中で「夏の香」として生き続ける思い出がある。それは高校での部活の合宿での出来事だ。

 

 高校に入学した私は、ほんの気まぐれで女子バレーボール部のマネージャーになった。夏休み直前になって、夏合宿について驚きの全貌が明らかになった。

 まず、夏合宿を学校で行うことに驚いた。しかも、寝泊りするのは普段使っている教室だ。机を並べて舞台状にし、その上に布団を敷いて寝るのだと知ったときの衝撃は今も忘れない。

 シャワーは、プールのシャワー室を使用。食事は保健室に置いてある小さなコンロでマネージャーが3食作るのだ。

 これが授業料の高い私立高校の合宿の実態とは信じられない。

 3年生のマネージャーの先輩は引退済み。2年生にはマネージャーはおらず、1年生の私が唯一のマネージャーだ。まさか、たった1人で部員30人分の料理を切り盛りするとは思いもしなかった。しかも、1日3食、2週間も。

 私は小学3年生から家事を手伝ってきた。家族全員分の布団の上げ下ろし、掃除、風呂の準備、洗濯物たたみ、食器ふき。しかし、母は料理だけは手伝わせようとしなかった。

「台所は女の戦場。戦場に武将は2人いらぬ」

 これが母の口癖で、足軽の私は後片付け専門だった。

 なんだかんだ言っても、合宿中は誰か手伝ってくれるだろうと思っていたが、本当に1人だった。何を作ったらよいのか、どうやって作ったらよいのか分からない。料理初心者なのだ。体育館の地下にある購買部横の赤電話から、メモを片手に何度も母に電話をした。

 私も辛かったが、きつい練習に耐えて疲れているのに、私の手料理を口にする部員たちも辛かったと思う。それでも、誰も文句を口にはしなかったが、なんとなく殺伐とした雰囲気がいつも漂っていた。

 合宿も半ばを過ぎたころ、八百屋を営んでいる同級生の父親が、大量の桃を差し入れてくれた。その日から、食事中の雰囲気が和やかになった。

 部員も監督もコーチも私も、朝昼晩と3食、各自1つずつに桃が配られた。私たちは皮も剥かずに夢中でかじりついた。

 部活初日に1人1枚ずつ差し入れでもらった真新しいハンドタオルで、腕をつたう桃の汁を拭った。合宿が終わるころには、どんなに洗っても、タオルには桃の香りが残った。

 今でも桃見るだけで、ふとタオルにしみ込んだ懐かしい夏の香を思い出す。

 

 ミツキやリオにも夏に、何かに熱中してもらいたいが、今年はなかなか難しい。

 ミツキが小学校のころはキャンプや野球。中学校も野球をがんばっていた。高校ではバトミントン部に入部した。しかし、活動的な部活ではなかったようで、いや、ミツキ自身も活動的でなかったゆえに、昨年の夏の終わりには辞めてしまった。そして、今年は「何かしなくては」と思ってはいるようだが、何もしていない。非常に残念だ。

 机の上に「人生設計」と書かれたB6版のキャンパスノートが置いてあるが、中身はまだ白紙だ。一刻も早く、このノートに夢の1つでも書き込まれることを願っている。

 とにかく何でもいいから何か「やる」ことが大事!

 リオは今年中学生になり、夏休みを部活に捧げるはずが、このご時世ではそうもいかない。水泳部に入部したものの、今年は学校のプールは中止なのだ。

 ウィルスのせいにして文句ばかり言っていても始まらない。ピンチはチャンス。ミツキとリオが、何か熱中できることを陰ながら提案していきたい。

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