葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

【こぼれ話】whiteリオ

 ミツキの幼稚園は広域から園児が集まっていたので、小学校では仲の良い友だちは散り散りとなった。同じ小学校に入学したのは、ミツキを含めて5人だけ。しかも、ミツキ以外は隣のクラスだった。

 本人は何も言わなかったが、きっと不安に違いない。勉強嫌いで集団行動嫌いのミツキが、小学校という新しい環境の中でがんばろうとしている。

 もし、ミツキが辛い気持ちになったときに理解し寄り添うにはどうしたら良いだろうか。

 そこで思いついたのが、PTA活動。各クラスから本部役員2名、その他3つの部に1名ずつ選出される。役員の任期は1年。役員選出のルールとして、1児童につき1回は役員を務めなければならない。ちなみに、6年間で1回も務めない場合、自動的に6年時の卒業対策委員となる仕組みだ。

 どのみち1回はPTA活動に参加しなければいけないのだから、1年時に済ませてしまおうと思った。ミツキ同様、自分も新しい環境に身を置こうと思った。

 初めての保護者会で広報部に立候補。他に候補者はおらず、あっさり決定。保護者会終了後、1年から6年の役員集合。いきなりクジ引きで、部長・副部長・書記・会計が決まった。

 セーフ! 勢いで立候補してしまったが、役付になったらド偉いことだった。

 ホッとしたのも束の間。実際活動が始まると、大事なことを見落としていたと気付いた。リオの存在だ。

 広報部では、PTA活動を掲載した新聞を年4回発行していた。B4用紙8枚というなかなかのボリュームだ。会合は月1回なので回数こそ多くはないのだが、1回の拘束時間が3歳のリオにはキツかった。校正や印刷の日は、4時間に及ぶこともあった。

 そもそもリオは、場所見知り、人見知りが激しい。リオが泣きそうになると、私は「じゃがりこ」を与えてなだめた。お母さんたちは、親しみを込めてリオを「じゃがりこちゃん」と呼んだが、リオは一切懐かなかった。

 私は、自分の思いつきでリオを悲しませていることを申し訳なく思った。ミツキのことばかりで、リオのことを考えていなかった。

 しかも、ミツキは入学して数日ですっかり学校に慣れ、友だちもできて、毎日が楽しそうだった。完全に私の取り越し苦労。リオが幼稚園に入園してからにすべきだったと後悔したところで、後の祭りだ。

 リオは、いつもPTAルームの端でうずくまって寂しげにしていた。その姿を見ると胸が詰まる思いだった。

 ある会合の日の前夜。

「明日はまたミっちゃんの学校で、ママはお仕事なんだ。リオちゃん悪いんだけど、またママにお付き合いしてね」

「うーん。お菓子買ってね」

「分かったよ」

「行く前に公園で遊びたい」

「10時からだからちょっとだけならいいよ」

 翌朝。朝方雨が降り、遊具が濡れていた。

「公園で遊ぶのは帰りにしよう」

「うん。ママ、約束ね」

 渋々納得するリオ。帰りはたくさん遊ばせてあげようと思っていたのに、作業はどんどん長引いた。ランチを挟んで作業再開。やっと終了するころには、1年生の下校時間になってしまった。

「リオちゃん、ごめんね。ミっちゃん帰ってくるから、もうお家に帰らないと」

 リオは眠そうにコクリと頷いた。約束も守れないなんてと思いつつ、家路を急ぐ。

「ママ、楽しいね」

 学校を出て少し歩いたところで、突然リオが言った。

「え? リオちゃん、今楽しいの?」

「うん、ママと手をつないで歩くから」

 くぅ~(川平慈英風)となった。

「ありがとう。リオちゃん。ママも楽しい。そして、しあわせ」

「リオちゃんも!」

 胸の中心がほわんと温かくなり、私の心はここにあるのだと分かる。

 リオの優しさ溢れるピュアな言葉に、私はいつも癒やされる。ミツキの学校公開の帰り道に私ががっかりしているときなども。

 リオに助けられてばかりで、これでは母と娘の立場が逆転だ。

 優しすぎるがゆえに、本当は嫌でも我慢してしまうリオ。私は、ついミツキに掛かりきりになり、いつもリオのことは二の次だ。

 手の掛からない良い子だからこそ、壊れてしまうなんてこともあるかもしれない。もっとリオの気持ちに寄り添おうと改めて思った。

 あれから10年。中学生になったリオは、ちゃんとそこそこ生意気で、ときどきBlackリオになる。それでいい。

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