【こぼれ話】学校公開

 学校行事の1つに「学校公開」というものがある。これは昔で言う授業参観に当たるものだが、より子どもたちの普段の様子が見られてよい。公開期間は1週間もあり、朝礼と給食と帰りの会以外は全て参観できた。

 私はミツキの学校での様子、授業の進み具合や理解度などが心配だったので、毎日1時間は参観するよう心がけていた。

 平日にもかかわらず、ミツキの学年の保護者は参観率が高かった。たくさんの保護者と顔見知りになり、情報交換ができるのも利点の1つである。

 ミツキが小1のときリオは3歳。当然すぐに飽きてしまう。なだめたり、抱っこしたり、廊下と教室を出たり入ったり。私もリオも大変だった。

 個人面談ではミツキの様子を担任の先生にボロクソ言われていたので、他の児童とどんなところが違うのかよく観察した。ミツキだけ悪目立ちしてひたすら注意をされていると思いきや、意外にもみんなまんべんなく注意を受けていた。先生の信念のある公平な指導に好感が持てた。

 ホッとしたり、意外とやるじゃんと感心したりすることもあるが、来るんじゃなかったと悔やむことも多々あった。

 中でも最も穴があったら入りたいと思ったのは、小2の道徳の時間での出来事だ。リオの昼寝の時間に重なるので、参観はいつも午前中ばかりだった。しかし、その日はなぜか5時間目の道徳を選択した。学校に行くと他の保護者は誰もおらず、私とリオだけ。この時点ですでに教室に居づらい。

 授業内容は「ちびまる子ちゃん」のマンガを題材に、登場人物のそれぞれの気持ちを考えてみようというものだった。プリントが配られ、子どもたちは空欄に思いついた文章を埋めていく。書いている様子を先生が見て回り、内容を確認していた。先生はミツキの横でも立ち止まり、うんうんと頷く仕草をした。

 発表時にミツキが絶対に指されると思った。これまでも私が参観した全授業で、ミツキが手を挙げると必ず指されていた。先生も保護者に気を遣ってくれているのだろう。

 ただ、人の気持ちを考えて文章にするという問題で、ミツキが手を挙げるとは思えない。ミツキは話すことは得意なのに、どういう訳か文章に書き表すことがまったくできなかった。言葉で発したことをそのまま書いてごらんと言っても、なぜか文字にできないのだ。

 普段の授業なら様々な質問があり、挙手のチャンスもたくさんあるが、この時間ではプリントを仕上げた後のみだ。

「では、みんな書き終わったようなので、発表してもらいましょう。発表してくれる人」

 一斉に手が挙がる。予想通りミツキは手を挙げなかった。指された子が発表をする。

「○○さんの意見どうですか?」

「同じです」と同じ意見の子どもたちが言う。

「他にありますか?」

 同じ意見の子が多かったようで、挙手の数がぐっと減った。これを2回繰り返したところで挙手する子はいなくなった。

「もういませんか? さっき見てまわったとき、もっといろいろな意見がありましたよ。道徳に間違いはありません。いろいろな考えを聞かせてくださいね。じゃあ、葉野くんの意見を聞かせてもらおうかな」

(ぎゃー! 先生、私に気を遣わないで)

「ぼくは、いいです」

(うわー、断った!)

「いいですじゃないです。発表してください」

「ぼくは、イヤです」

(きゃあ、もう止めて!)

「葉野くんの意見、先生はとても良いと思いました。はい、立って」

 先生がミツキの後ろに立ち、ミツキを立ち上がらせようとした。すると、ミツキは激しく抵抗し、机に覆い被さってしがみついた。机から引き離そうとする先生対机を離すまいとするミツキ。

「葉野くん、がんばって読んじゃいなよ」

「葉野、お母さんがびっくりしてるぞ」

「葉野、とにかく読んじゃえよ」

「葉野くん、大丈夫だから、がんばって」

 男子からのヤジ、女子からの励ましで教室内は大混乱と化した。

 諦めた先生が、方向転換をする。

「葉野くんがせっかく良い意見を書いてくれたから先生は是非みんなにも聞いて欲しい。じゃあ、誰か代わりに読んであげてください。えーと、ではYさん」

 全員の視線がバッとYさんへ注がれた。私もすがるような目でYさんを見た。

 そろりそろりとYさんは立ち上がった。しかし、俯いたまま動かない。クラス中の視線がYさんに集まる。

 鼻をすする音、Yさんは泣いていた。2年生の女子には荷が重かったのかもしれない。

 クラス中が居たたまれない気分にさいなまれたとき、待望のチャイムが鳴った。先生がサクッとミツキのプリントの文章を読み上げ、地獄の授業終了。

 そのまま帰りの会に突入。先生と目が合い、互いに「すみません」と頭を下げあった。

 そして、教室のドアを出る直前、思いがけないことが起こった。ミツキが追いかけてきたのだ。

 さすがに悪いことをしたと詫びに来たのだろう。そう思いながら振り向いた。

「ママー。今日遊んでもいいよね?」

(はい、出ました。空気読めない人間)

「ど・う・ぞ」怒!

 

 翌朝「今日は何時間目に来る? オススメは体育だよ」なんて言ってくるミツキ。

 学年が上がるにつれて恥ずかしい思いをすることはなくなり、安心して参観できるようになった。

 今となっては全てがいい思い出である。

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