葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

【こぼれ話】リンゴちゃんごっこ

 「ママ、リンゴちゃんごっこしよう」

 散歩の途中にベンチでひと休みをしていると、4歳のリオがニコニコしながら言った。

「リンゴちゃんごっこって何?」

「リオちゃんが考えた遊びだよ」

「ふーん。どうやるの? 教えて」

「あのね、リオちゃんが『リンゴ』って言ったら、そのあとに『リンゴ』って言うの」

「分かった。ママはリオのあとに言えばいいんだね」

「うん、そう。じゃあ言うよ」

 なんのオチもなさそうだ。4歳の子どもの思いつきの遊びがどの程度のものか想像するに容易い。

「じゃあ言うよ」

 リオが息を吸い込み、「リ」の口になったところで私も同時に言ったらどうなるか試してみた。

「リンゴ」

 私とリオの声が重なった。

「違う、違う。リオちゃんが『リンゴ』って言うのを聞いてから、ママが『リンゴ』って言うの」

 リオはニコニコ笑いながら言った。

「あ、ごめん。間違えちゃった。リオのあとに言うのね」

「そうだよ。もう一回言うよ」

 リオが息を吸い込む。

「リンゴ」

 リオは笑い転げた。

「違う、違う。ママはリオちゃんのあとだよ」

「あ、そうだった。ごめん。ついね」

「とぅい、じゃないよ。ママ、しっかりして」

 リオは『つ』の発音がかわいかった。

「もう一回言うよ」リオが、息を吸い込む。

「リンゴ」

 手を振りながら笑い転げるリオ。

「違う、違う。ママはあとだよ」

「あ、そうだった。ごめん。ついね」

 私は笑うのを堪えて、申し訳なさそうな顔をした。

「だから、とぅいじゃないって。リオちゃんにとぅられて言いたくなっても、我慢して。ママはもう大人なんだから」

「分かった。ママはもう大人だから我慢する」

「じゃあ、言うよ」

 息を吸い込むリオ。

「リンゴ」

「こらー! ママはあとから言うの」

 言葉と裏腹に爆笑している。

「いい? ママ。もう一度ママにも分かるようにゆっくり言うから、しっかりと聞いてね。それで、忘れないでね」

「わかった。よく聞くし、忘れない。でも、ちゃんと出来るか自信ない」

「ママ、大丈夫だよ。自信持って。リオちゃんがしっかり教えてあげるから」

 リオに励ましと説明を受けて再挑戦。

「リンゴ」

 その後も同じ状態が続くと、リオは笑いながらも首をひねった。そして、ボソボソとひとり言を言い始めた。

「このママなんだかおかしいな。こんなに教えているのになんで分からないんだろう? どうしたら分かるのかなぁ」

 頭を抱えて考え込んでいる。

「ママ、お口チャックって知ってる? 今からリオちゃんがママのお口にチャックをしてあげる。それでママが言う番になったらチャックを開けてあげるからそうしたら言ってね」

「おお、なるほど。いいサービスだね。それならママにもできるかも」

 リオが私の口の右端から左へチャックを閉める。

「ママのお口はもう開かない? 」

 私はコクリと頷いた。

 リオが息を吸う。

「リンゴ」

「わあ! ボロいチャックだなあ」

 私は爆笑だが、リオは真剣な表情だ。

 その後もチャックをしても、手で塞いでも開いてしまう私の口に、リオは何度も首をひねった。

 気がつくと30分も時間が経っていた。リオの言う通りにしていたらどんなゲームになっていたのだろうか。私はリオがじれだしたら従おうと思っていたのだが、リオは一切じれなかった。それどころか楽しそうだった。教えてあげる喜びを感じつつ、何度説明しても理解できない母親を助けたいという思い、そしてなんとか遊びを成功させたいという情熱が伝わってきた。

 リオはやっぱり春の妖精だと思った。

 ミツキに勉強を教えるときの私とは大違いだ。私は自分の未熟さを痛感した。

 リオからも学ぶことが多い。

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