クイズ付宣言書
「卒業式に行くと、いろいろな資料が入った封筒を渡されると思うんだ。その封筒の中に手紙が入っていると思うんだけど、読まないで捨ててもらえないか」
卒業式の前日、ミツキは神妙な面持ちで言った。文章を書くのが苦手なミツキのことだ。どうせまたズレたことを書いたに違いない。
「せっかくだから読ませてもらうよ。ズレたことを書いた認識はあるってことだね?」
「うん。急に書けって言われても、こういうときなんて書いたらいいのか、すぐには出てこないんだ」
「知っているよ。いいよ、気にしなくて。私はもう慣れているから。でも、今後のために一応言っておくけど、『卒業式』『親に渡す手紙』というキーワードから書く言葉って、相当限られてくると思うんだよね。一番オーソドックスなのは『ありがとう』だよね。気が利く子は『反抗期も優しく見守ってくれてありがとう』とか具体的な感謝をするよね。しかも、しっかりと紙を文字で埋め尽くしているだろうね」
「んがー。そうなんだよ。回収されてから分かったんだよ。マジでハズいから捨てて」
「うんにゃ、捨てない。楽しみにしているよ」
相変わらずだなあと呆れながらも、どんな内容か想像した。
- 五行程度
- 最大限きれいな文字で書こうとした努力の後は見られる
- 誤字脱字あり
- 句読点があやしい
おそらくこんな感じの文章だろう
『今日ぼくは中学を卒業します。3年間は長いような短いような。部活は楽しかったけど、それ以外はクソでした。高校生になったら毎日弁当です。よろしくお願いします』
ミツキは興味のないことの感想を述べるのが苦手だから、実際に起きたことを切れ切れに伝えてくるに違いない。また、過去を振り返らない系男子なので、高校の話を持ち出すだろう。
卒業式には野島大地くんのお母さんと一緒に行った。学校に着くと、受付で例の封筒を渡された。席に座り、中身を確認する。細長い封筒を発見。
「昨日、ミツキに、手紙を捨ててくれって頼まれたんだよね」
「え? なんで?」
「何を書いていいか分からなくて、またズレたことを書いたみたいよ」
「ああ、なんか分かるわ。男の子ってちょっとそういうところあるよね。大地はなんて書いたんだろう。怖くなってきたな」
「大地くんは大丈夫だよ」
「いや、分からないよ。お姉ちゃんのときは感動して泣けたんだけどな。大地からはそういう感動はもらえないだろうな。男子は、照れもあるだろうしね」
「確かにね。でも、照れとズレはだいぶ違うから、大地くんは大丈夫よ」
「だといいけどな。ミツキくんの楽しみだね」
「ある意味ね」
帰宅し、一息ついてから手紙を取り出した。封筒の宛名は「ご両親様」となっている。
前略
今だに文章を書く能力が低すぎるので大した事は書けませんが一つだけ今後の目標を見て頂きたいと思います。それは、動いている時の時間を短縮する事とできるかぎりは、時間を厳取して朝も時間通りに外出できる様にします。
ちなみに、あなたが思う多くの人を苦しめているモノはなんだと思いますか?
想像を遥かに超えていた。何度も何度も読み返した。気持ちを落ち着け、予想と照らし合わせた。
全問正解。
正解したところでうれしくはない。これでは、手紙ではなく宣言書だ。だがまあ、決して悪くはない。前を向いて、今後の抱負を述べているのだから良としよう。
決定的におかしいのは最後のクイズだろう。答えはなんだろう。天災? 戦争? 人種差別? 貧困? 私には分からなかった。
ミツキが帰宅したら聞いてみよう。手紙を元通りに折り、封筒に入れようとしたとき、手紙の裏に薄く小さな文字で、クイズの答えが書かれていることに気付いた。
「私は時間だと思う」