葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

成功体験がまったく活きない

 ミツキに「やればできる」を実感してもらえるように、ずっとサポートしてきた。一般的には、成功体験をすればもっとがんばろうと欲が出るものだと思うのだが、ミツキに限ってはそうはならない。うまくいったところで、それはそれと終止符が打たれてしまう。「次はもっとがんばろう」とはならないのだ。それどころか「1回はがんばったから、もういいんじゃねえ?」となる。

 せっかく2年生後期期末試験はいつもよりがんばって、良い結果を出せたのだから、もっと意欲的になって欲しいところなのだ。しかし、そう上手くはいかない。

 3年生進級前のこの春休みに復習をやっておきたかったのだが、日に日に態度が悪くなった。9時になってもゴロゴロ寝そべっている。儀式のオンパレード。説明を聞いていない。悪態をつく。勉強に関係のない話ばかり振ってくる。眠いと言って寝てしまう。そんな毎日に私の怒りが爆発した。

「もうやめよう。バカバカしくてやってられない。中卒で住込みで働けばいいよ。そうしたら、もう二度とあんたの顔を見ないで済む」

 約1か月半、ミツキを放っておいた。一応毎日机に向かってはいたが、ただ座っているだけだった。むしろ、よくそこまでただ座っていられると感心してしまう。

 5月の終わりころ、因数分解を教えて欲しいと要請があった。因数分解の前の単元である展開から教えると、すんなり理解することができた。計算は楽しいようで進んでやるのだが、文章題となると進まなくなり、やる気も失せる。また悪態をつくようになり、毎日が「忍耐」の日々へと戻っていった。

 6月中旬の土曜日に行われた夏季大会にて、ミツキたち3年生は野球部を引退した。小学4年生の終わりから約4年間半、よくがんばったと思う。熱血野球少年には程遠いけれど、それなりにがんばっているミツキが好きだった。

 残りの中学生生活は、受験に向けて気持ちを引き締めて欲しかった。前回の試験でやっとがんばろうという気持ちになって、社会の点数も平均点を超えられたのだ。がんばった分点数が上がるという成功体験を忘れて欲しくなかった。

 ところが、部活を引退したら勉強にシフトチェンジではなく、遊びたい気持ちが開放されてしまった。10日後に中間試験が迫っているというのに、机に向かうことさえしなくなった。土日は、朝起きる気配もなかった。

「働かざる者食うべからず。学生の本分は、学業だよ。学生である以上、勉強しなければならない。今のあなたは食事をする権利もない。私はあなたへの食事提供をやめる」

 ミツキは斜め下に視線を落とし、反抗的な目つきをしてイキっている。

 土日月の3日間、白米だけで過ごした。成長期の子どもにこんなことしたくない。もっと他にやりようはなかったのかと、私は自分自身を責めているのに、ミツキは平然としている。まずいと思って勉学に励むでもなく、怒り狂うでもなく、私に何も言われないのをいいことにのんびりと過ごし、白米をモリモリ食べている。

「おのれ、なんでも受け入れちゃう系男子め!ビタミンB1不足で脚気にでもなってしまえ!」と呪う。

 さすがのミツキも堪えたようで、月曜日の就寝前謝ってきた。食事提供を開始し、栄養面は整ったが不勉強が祟り、2日後の中間試験はまたもや燦燦たる結果だった。

 夏休みに入り、ワークの復習や過去に受けた模擬試験の復習を中心に進めが、たったの2週間で根を上げ、イキった目つきで舌打ちした。私が、毎日どれだけ嫌な思いをしながらも勉強をみているというのか。

 もうやらなくていい。私はふて寝を始めた。するとヤツも寝始めた。1時間程でまずいと思ったようで「勉強しようよ」と声を掛けてきた。無視すると、社会のワークを始めた。社会をやるくらいなら、単語のひとつでも覚えて欲しい。結局やりたくないことから逃げているだけだ。

 朝起きると枕元に「あと6か月間お願いします」と謝罪のメモが置いてあった。更に「朝僕は家にいないけど、走りに行っているだけなので心配しないで下さい」とも書いてあった。

 しかし、ヤツは普通に寝ていた。

 昨晩寝る直前は、ミツキなりに反省したのだろう。そして、自分1人の力では勉強を進めることはできないと認識もしたのだろう。私に謝罪し、勉強に付き合ってほしいと頼もうと思ったのだ。新しい自分に生まれ変わるんだという意思表明として、早朝ランニングをするつもりだったのだろう。しかし、一度寝たが最後、計画は頓挫した。

 アホか。せめて今日だけでも走りやがれ。口先仮面め!そもそも、手紙で謝ってくんじゃねーよ! とも思ったが、なんだかアホ過ぎて笑えてきた。ミツキには敵わない。

 あと半年、がんばろう。どんなにミツキの態度に腹の立つことがあっても、今度こそ私は逃げずに最後までやり通すと心に誓った。

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