潜在意識に刷り込む

  6月は野球の夏季大会に向けて朝練があったため、7時過ぎには登校した。そのおかげで、ビー玉はどんどん瓶に貯まっていった。

 瓶に色とりどりのビー玉が貯まると、とてもきれいだった。

「おっ、今月はお小遣いもらえるぞ」

 貯まればミツキもヤル気が出るようだ。せっかくなので、もっとやる気が出るようなパフォーマンスはないだろうか。

 私は短い言葉でミツキを応援することを思い付いた。ビー玉をガラスの小さなお皿に移し、1つ1つに言葉を書き込んだ。「ヤル気UP」「絶好調」「集中力UP」「HAPPY」など。私はこれを言霊ビー玉と呼んだ。

 もし私やリオだったら、超スペシャルやる気MAXで張り切って出かけるようになるのだが、ミツキには全く効果がなかった。ただ単に6月は朝練のおかげで1,846円になっただけで、7月以降は惨敗だった。

 言霊ビー玉でもまったくなびかないミツキ。1日150円と決めて毎日現金支給するのがいいのかもしれない。小銭を調達しに銀行に行く途中で、急にバカバカしくなった。そこまでやらなきゃダメなの? もうどうでもいいや、と私のやる気が失せてしまった。

 毎日言霊をもらえて、月の終わりにお小遣いを満額もらえる方が、何倍も素敵だと思う。ミツキには言霊が必要なはずだ。

 思い返してみると、幼いころからミツキはネガティブな発言が多かった。それに対してリオの発言はポジティブだった。

 3歳時点でミツキとリオが歌う歌には、大きな違いがあった。ミツキは元の歌詞の語尾を真逆に替えた。例えばサザエさんのうたは「お魚くわえないどらねこ 追いかけない 裸足でかけないゆかいじゃない サザエさん」となる。初めのうちは笑って聞いるが、すべての歌がこうなるので、まともに歌わないなら一切歌わなくていいと思うようになった。

 リオは既成の歌ではなく、即興で作詞作曲の歌をよく歌った。清らかな声で奏でる歌は、幸せが詰まっていた。

「空を見上げると光がさして、そこには虹があるの。私のこころは風にのって、雲と遊ぶ」

 スタート地点は同じでも、2人の結果には差が出た。

 どちらも物事に積極的なタイプではないが、ミツキは「興味ない」と拒絶し続けて成果が上がらないのに対して、リオは少しすると「おもしろくなってきた」と言って上達した。

 どちらも器用なタイプではないが、ミツキは成功体験を活かせないのに対し、リオは一度の成功体験で自信を持つことができた。

 生まれ持った力量は同じでも結果に差が出るのは、発する言葉が関係していると私は思う。だから、ミツキにサブリミナル効果的に良い言霊を贈りたかったのだ。

 言霊作戦に失敗した私は、他に良い方法はないかとネット検索した。そこでヒットしたのが「アファメーション」と「マーフィーの法則」だった。

 

アファメーション

英語のaffirmationには、肯定・確定・断定といった意味があり、自分自身に対する肯定的な宣言のことである。なりたい自分にふさわしい文言をつくって、何度も言ったり、見たり、聞いたりすることで、自分自身に健全な「思い込み」をつくること。

マーフィーの法則

ジョセフ・マーフィー博士による人生の法則で、人生のゴールデンルールを知って上手に活用すれば、人は誰でも「自分の思い描いた人生を生きることができる」というもの。ゴールデンルールとは、潜在能力のことで、強く思い描いた夢や願望は必ず実現するという不変の法則のこと。

 

 右脳や潜在意識に働きかけるという、私としては大いに興味を掻き立てられる分野なのだが、興味を示さない人には最もバカバカしく感じる分野だった。今のミツキに言ってもなんの効果もないとは思ったが、何年も先にふと思い出して興味を持つかもしれない。

「昔、ジャイアンツにいた中畑選手は、記者に調子はどうですかって聞かれたら、必ず『絶好調』と答えたの。絶好調男と呼ばれていたよ。不調な時でも絶好調って答えるの。口に出して思い込むことで、本当に絶好調になれていたんだよ。だから、ポジティブな発言を常にすることはとても大事なんだ。これもアファメーションの1つだと思うの。ミツキもやってみようよ」

 文言を一緒に考えて紙に書出し、毎日唱和することにした。一瞬興味はもったが、やはり続かなかった。

 そこでミツキのベッド横の壁に、アファメーションマンガを作成し貼ってみた。絵心皆無な私の渾身の作品だ。

 マンガの内容は、以下の通り。

  • 夏休みたくさん勉強し、夏の終わりには復習テストで高得点を採れるようになった。
  • 自分は勉強ができると自身が付いたミツキは、夏休み明けの期末試験で、9教科全て平均点超えを達成。
  • 数学と英語の先生に褒められた。
  • 日々の学習が楽になり、通知表の内申点は「43」、偏差値は「58」となった。
  • 高校の推薦を難なく受け、高校入試では余裕で合格。
  • 卒業式で記念撮影。
  • 気づけば身長も170センチに伸びていた

 マーフィーの法則では、寝しなのうつらうつらしているときが一番潜在意識に刷り込むのに適しているそうだ。ミツキが寝しなに読めるよう、ベッドに横になったときの目線の位置に貼った。それを毎晩読むことで、実現に導こうと思ったのだ。

 しかし、もちろん、ミツキが毎日読むわけがない。すぐにマンガは壁の模様と化した。結局は本人がやろうとしなければ意味が無いのだ。

 

 にほんブログ村 子育てブログへ
にほんブログ村