内申をあげるには①
換算内申では、実技4教科の素内申の合計を2倍する。ということは、主要5教科の成績を上げるよりも効果的に換算内申をあげることができる。とはいうものの、物作りが苦手なミツキに作品のクオリティは期待できない。また、試験勉強をやろうにも、試験前には他の教科で手いっぱいになるだろう。では、どうしたらいいか。情けないが、答えは簡単だった。
- 技術・家庭・美術の作品の提出期限を守る
- 柔道や水泳にまじめに参加する
- 音楽でしっかり歌う
中1の後期期末の保健体育で驚愕の「0点」を取ってきたミツキ。それでも後期の内申は「3」だった。水泳の授業も終わり、他の競技の授業は真面目に受けたのだろう。実技教科の授業態度は、内申を上げるには重要だ。そう考えると、水泳授業を一度も受けず、試験の点数も最悪にも拘らず前期の内申が「2」だったのは、先生のご厚意としか思えない。
ミツキの口癖は、幼少期からずっと「興味ない」だ。何に対してもすべて「興味ない」でやり過ごしてしまう。そのつけが、今ここで実技教科の「1」や「2」の内申として表面化してしまったのだ。
「ミツキは、中学卒業したらどうしたいと思っているの?」
「高校に行きたい」
「そっか。私、前期の通信簿を見てとても不安になったから、おととい木本先生のところに行って受験について聞いてきたの。そうしたらね。この内申だと、どこの公立高校も受験さえ出来ないってことが分かったの」
「え……」ミツキは眉をひそめた。
「最低でも『32』はないといけない内申が、ミツキは『25』しかない。あと『7』も上げないといけないの」
ミツキは、もはや言葉も出ない。
「私立でもこの内申では推薦が取れないから、自力で受験するしかない。でも、推薦がないと合格は難しいよ」
微動だにしないミツキを見るのが辛い。
「木本先生が、エンカレッジスクールっていうのを教えてくれたの。授業が30分間で、丁寧に授業を進めてくれるんだって。ここいいと思わない?」
「エンカレッジスクールは、ちょっと」
「ちょっと何?」
「いや、ちょっと、あんまり、イヤだ」
「そうなんだ。エンカレッジスクールって知ってた?」
「うん。まあ知ってる。イヤだ」
「あ、そう。分かった。でも、万が一、このまま内申が上がらなかったら、そのときは、ここって話になるよ。で、そうなったら、試験はないけど、作文なんだって」
「作文? 余計無理じゃん」
「うん。でもさ、文章を書くことは、いずれは必要になってくるから、練習しておくことはいいことだと思うんだよね」
「まあ、そうだな」
「でしょう? だから、作文の練習はしよう」
「うん、分かったけど、内申がんばってあげるから、普通の高校に行きたい」
「分かったよ。じゃあ、どうやって内申上げるか。どうしたらいいと思う」
「勉強がんばる」
「がんばるって言うのは簡単だよね。どうがんばるかが重要なんだよ。そらから、勉強の前にやれることもある。なんだと思う?」
ミツキは、また固まった。
「実技教科。プール、柔道、歌、調理時実習などに真面目に参加すること。作品・提出物の期限厳守。とにかく授業態度を真面目にする。実技教科のオール『3』を目指そう。少なくとも美術と体育は『3』にしよう」
「分かったよ。来年のプールは必ずやるよ」
「絶対だよ。約束だよ。逃げてばかりいて、痛い目に遭うのは、他でもないミツキだよ」
「分かったよ。あーあ、恭介だってプールに入らないし、柔道もさぼってるのにな」
「あのね、一見同じようにふざけているとしても、みんないざというときの瞬発力があるんだよ。やるとき、やらないときの緩急があるというか。ところが、あなたは押し並べてふざけているし、残念ながら瞬発力もない。瞬発力がないことは別に悪いことではないよ。ただ、それがないのであれば、常日頃から真面目にやっておく必要があるんだよ」
「ふーん」まったく納得できないようだ。
「小学生まではさ、漢字テストの前に『漢字練習忘れた』って友だちが言ったら本当にやってないけど、中学生以上になると友だちの言う『勉強してない』は、絶対ウソだよ。みんなやってる。それを信じて自分もやらないでいたら、本当にたった1人、最後の最後でバカみるよ。みんな心の成長とともに、要領が良くなっているんだからね」
「マジか」
やっと観念したか。このバカチンが!