葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

英語の学習

 塾の英語を辞めて、本格的にミツキとの家庭学習が始まった。11月半ばの期末試験に向けて、塾以外の日は毎日9時から11時までの2時間を予定していた。

 しかし、いつもミツキが開始時間に遅れた。家事を終え、先にテーブルに着くのは私だった。とにかくミツキは時間にルーズなのだ。グズ野郎だ。部活をやっている中学生は、限られた時間をいかに有効に使うかで大きな差が出る。

 部活終了後帰宅は7時。すぐにお風呂に入って8時から夕食。30分で食事を終え、残りの30分休憩した後、九時から勉強。2時間もあれば、2教科はできるはずだ。

 ところが、ミツキの場合はそうはいかない。

 7時に帰宅。お風呂に入る前に特に何をするでもなく、ただだらける。7時半過ぎにやっと入浴。1時間は出てこない。シャワー音が、滝行ですか? というくらいずっと聞こえてくる。8時半過ぎ食事開始。よく噛むことは良いことだが、遅い、遅すぎる。9時半過ぎにやっと勉強を始める。
 英語の教科書音読から開始。スラスラ読める。次に教科書の日本語訳。初めてやるページは、難航する。一度訳したページは、日本訳を覚えていてスラスラ言う。これでは意味がない。

「英文をしっかりと見ながら日本語に訳してね。日本語訳の暗記じゃ意味ないよ」

 次に新しい単語と熟語の暗記。ここで早速つまづく。ミツキ1人に任せると、単語をただひたすら、書き続ける。たくさん書くが、ちっとも覚えられない。単語の覚え方を次のように提案した。

・発音しながら単語を書き、日本語を言う

・3回繰り返して、次の単語に進む

・一度に覚える単語は5つまで

・各3回書いたら、5つの単語テスト

・全問正解するまで繰り返す

 発音は2種類。ミツキはフォニックスを知らないので、ローマ字読み風にしてからその後に本当の英語の発音を言う。

 例えば「taught」の場合は、「タウグハト」と言いながら単語を書き、「トート」と発音し、「ティーチ、教えるの過去形と過去分詞形」と言う。これを3回繰り返したのち、他の5つの単語とともにテストをする。

 これが、ミツキにはとても大変な作業だった。本人曰く、同時にやることが多すぎるのだそうだ。書きながら、覚えるための発音をしながら、本当の発音をしながら、日本語を言う。

「4つの作業を一度にするなんてオレには出来ないんだよ」

「そうだね、大変だね。でもね、ただ書いているだけでは、覚えるのは難しいの。それが有効でないということは、ミツキも経験して分かっているでしょう? このやり方は、手で書いて、口で言って、耳で聞くでしょう。いろんな部位を使うから脳に定着しやすいんだよ。今はこのやり方をしてみよう。すべてを同時にする必要はないから。ローマ字読みしてから単語書いて、その後に発音と訳を言ってもいいんだから」

 10秒でさえミツキから目が離せなかった。ちょっと気を抜くとすぐに元のやり方になってしまう。「はいローマ字読み」「はい単語」「はい発音」「はい日本語」と付きっきりだ。2時間なんてあっという間に経ち、振り返るとほとんど進んでいないなんてことは日常茶飯事だった。

 たかが単語でこれほど大変なのだから、英語はミツキにはタスクが多すぎると改めて思った。英文読みながら、日本語訳をしながら、どの文法を使うか考えて、穴埋めしたり、文の書換えをしたり、さまざまな問題に対応しなければならない。英語は積み重ねの学習だから、各単元の文法をしっかり理解して使いこなせないと、まとめテストでは太刀打ちできないのだ。

 脳内とは、こんな感じだろうか。例えば、単語や文法などの覚えたキーワードは、脳内の引出しの中に1つずつ納められる。テストの問題を読むと、問題の答に相応しいキーワードの入っている引出しが開けられて引っ張り出される。

「ワーキングメモリー」という言葉が、頭をよぎった。ミツキは、この数値が低かったことを思い出した。

 でも、諦めるものか。繰り返し学習すれば、時間がかかっても、いつかは身に着くのだ。

 私とミツキの戦いの日々が始まった。

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