野球部顧問寺田先生

 小麦と乳製品に遅延型アレルギーが判明し、まずは家庭の食事から除去食を試みつつ、サプリメントで栄養補給をする旨を養護の宮本先生に電話で伝えた。現段階では薬の服用の件を一旦保留にすることと、今後学校給食も除去食にするかもしれないことを付け加えた。

「分かりました。新しい方法で効果があるといいですね」

 宮本先生は、私が栄養療法を推してくることを予想していたようだった。

「すみませんが、野球部の寺田先生は今いらっしゃいますか?このところ部活を休んで病院へ行くことが多かったので、心配してくださっているようなので」

 ちょうど部活が終わったところで、寺田先生とも話すことができた。

 野球部顧問の寺田先生は英語の先生で、3年生の担任を受け持っている。真偽は定かでないが、千葉県木更津市出身の元ヤンだそうだ。なかなかのイケメンで、普段は物腰が柔らかいが、部活が始まると熱血監督に豹変するらしい。
 私は野球部の保護者会での様子しか知らないので信じられないのだが、「邪魔だ。どけ。うせろ。消えろ。死ね」が口癖らしく、ミツキがよく真似をしている。このセリフだけ切り取ると、今どきはパワハラで訴えられそうだが、部員はみんな寺田先生を慕っている。
 部活中に怒鳴ることはあっても、部活が終わるとすぐに気持ちが切り替わるようで、部活終了後はみんなで和気あいあいになるのだそうだ。引きずらないところが、寺田先生のいいところなのだろう。
 小学生時代は大人に怒鳴られることなどなかったので、部活に入部したてのころのミツキは、寺田先生を恐れて嫌っていた。しかし、毎日の練習の中で寺田先生の人柄や熱心さが伝わり、最も信頼できる存在となっていったのだ。

「寺田先生、いつもミツキがお世話になっております。このところ病院の検査で部活をお休みして申し訳ありません。実は検査の結果、ミツキは軽度の発達障害だと判りました。
 注意欠陥多動性障害とのことで、苦手なことが多く、集中力も続きません。皆さんにご迷惑をお掛けすることも多々あると思いますが、今後ともよろしくお願いします」

「そうですか。でも、今まで部活中に特に気になったことはないですね。上級生にもかわいがられていますし、同級生とも非常に仲がいいですよ。ああ、そうですか」

「みんないい人ばかりなので、いつも助けてくれるからです。ありがとうございます」

「そうですね。確かにみんないい子ばかりです。で、私の方で指導の上で気を付けた方がいいこととかってありますか?」

 私は、寺田先生のこの言葉にとても驚き、言葉が出てこなかった。先生にお願いしたいことなど、まったく頭になかった。野球というチームプレーの中で、迷惑を掛けてしまうことがあるかもしれないという申し訳なさしかなかったのだ。こんな言葉を掛けてもらえるとは思ってもいなかったのだ。驚くと同時にうれしかった。

「先生、ありがとうございます。他のお子さんと同じ指導で大丈夫です。ただ、病院の先生によると、他のお子さんより、できるようになるまでに時間がかかるとは言われました」

「なるほど。分かりました」

 寺田先生の気遣いに感謝。ミツキは本当に人に恵まれている。

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