葉野ミツキの育て方

そんなトリセツ、あったらいいのに

検査結果告知①

 知能検査の結果の翌日は水曜日で、ミツキは4時間授業だった。一時帰宅後、部活に出掛けるまでに1時間半ほど時間があるので、検査結果を告げる約束をしていた。前日から気になっていたようで、帰宅後、手を洗うとすぐにリビングにやってきた。

「じゃあ、病院での結果を話すね。まず、血液検査や尿検査などの検査に関してなんだけど。まったく問題はないって。ひとつだけセルロプラスミンの数値が基準値より低いって言ってたけど、特に問題ではないって。続いて、知能検査の結果ね」

 一瞬、ミツキの表情に緊張が走る。私も告知する覚悟を決めた。2人で顔を見合わせ、意味のない笑い声をあげた。

「なに?」ミツキがじれた。

「結論から言うとね。学習障害気味だった。なぜそうなっているのか。それを引き起こしているのがADHD注意欠陥多動性障害だって」

「ふふふ。なげーな」

「検査の結果はそういうことだった。でね、障害って名前に付いているから、えーって思うんじゃない?」

「うん」小さく頷く。

「でもね、これは、あくまでも体質なの。大多数の人を定型というんだけど、そういう定型の人たちと同じ生活は出来るでしょう。じゃあ、何が難しいのか。それは、みんなよりもちょっと遅いってことになるの。例えば、みんな一斉に『さあ、やりなさい』って同じ課題を与えられたときに要領よく、パパッと出来る人・・・」

「ああ、できない、できない」ミツキは、民謡の合いの手のように言った。

「中ぐらいの人もいれば、一番最後になる人もいる。その正常の範囲で、ミツキはゆっくりな人だよってことなの。こういうのを総合して、発達障害っていうんだけど。この「障害」って名前に付くのはよくないから変えようなんて意見もあるようだよ。だから、障害って言葉は除いて考えてね。
 発達がゆっくり、素早くできないっていう括りの中でも、ミツキは限りなく定型の人たちに近い、境界値にいるの。いわゆる、グレーゾーン」

「グレーゾーン」ミツキがおどけて、声色を使って繰り返す。

「だから、周りから『こいつちょっと変わってるけど、おもしろいヤツだし、いいヤツだよな』と捉える人もいれば『こいつグズグズしやがって』捉える人もいる。そういうのがグレーゾーンなんだよ。みんなと同じことやれと言われたら出来るけど、ただちょっとゆっくりなだけ。逆に言うと、時間をかけて努力したら出来るってことなの。
 時々さ、ママがミツキに強めに文句言うと『オレは出来ないんだよ』って言うよね。今度からママはこう言い返すよ。『はい、分かりました。素早くは出来ないんだね。じゃあ、ゆっくりじっくりやっていこうよ』そういえばいいってことだよね」

「ふふふ。まあそうだね」

「それから、なぜ成績不振なのかってことなんだけど、集中力がないよね。不注意、衝動性、多動。
 ゴミ箱にゴミをちゃんと入れてって言っても、いつもゴミ箱からはみ出しちゃう。洗顔のときは、下がビショビショ。そういうところが、不注意だよね。
 パッと思いつきで取って、ビリってやっちゃう。そういうところが、衝動性だよね。
 なんかめっちゃ無意味な、謎の儀式して動いているよね。そういうところが、多動。こういうのがあるから、集中しにくくて成績不振なんだよ」

 ミツキは、テーブルの上の検査結果の用紙に目を落とした。

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