遊び仲間③

 面談を終えて帰る私の足取りは軽く、早くミツキに倉山先生との話を教えてあげたかった。常日頃から私がミツキに言い続けていることが、倉山先生の考えと同じであったことは、大きな励みになった。私がそう感じるのだから、くらやマン信者のミツキにとっては大きな勇気につながるに違いない。ミツキは倉山先生を『くらやマン』と呼び、とても慕っていた。

 その日の夕飯どき、面談での倉山先生の言葉を全て伝えた。ミツキは、ただじっと私の話を聞いていた。うんともすんとも言わないのだが、目の輝きがいつもと違った。私の話を聞きながら、頭の中でシュミレーションをしているかのような表情だった。

「くらやマンがいいって言ったんだな」

 長い沈黙のあと、ミツキは私への確認とも自分への鼓舞ともいえるトーンでつぶやいた。

 変にやり過ぎてはいけないので、

「そうだよ、自分が嫌な気持ちだとしっかり伝えることが大事なんだよ」
と付け加えた。

 休日を挟んで月曜日の放課後も元気に遊びに出掛けた。このあと何か変化が起きるかもしれないと思うと、私はワクワクが止まらなかった。

 ミツキは、元気よく帰ってきた。

「やったぜ。ガツンと言ってやったら、みんな驚いてたぜ」という言葉を期待していたが、一向にその話にならない。しびれを切らして聞いてみると

「ああ、それね。なんか今日は普通に楽しかったんだよね。まあ、それが一番じゃん」

 確かに。私のばか。何を変な期待しているんだ。ミツキの方が、意外と大人。

 ついつい毎日私は期待してしまったが、何も起こらない日々が続き、平穏な日々に慣れていった。

 そして、忘れかけたころ、その日はやってきた。

 いつも通り5時過ぎに帰宅したミツキの鼻息が荒い。

「あのやろー、ついにやってやったぜ」

「キャー! ついに言えたのね。誰に? なんて? もしかして殴っちゃった?」

 興奮して一気にまくし立てる私。ところが、ミツキの歯切れは悪い。

 私としては、悪役であるボス2人のどちらかにガツンと言いかえす、怒りをあらわにする、あるいは手を出す、だと思っていたのだが、なんとなくもうちょっとしょぼかった。

 まず、相手。相手は、ボスではなかった。そんなに強そうじゃない相手だった。何をしたかは、歯切れが悪すぎて最後まで分からず仕舞いだった。おそらく、いつもはただじっと堪えていたものを「やめろ」ぐらいは言った感じ。もしかしたら、ぽんと突き飛ばすくらいはしたかもしれない。
 ボスに直接対決を挑むのは無理と判断したのだろう。もう少し言いやすい相手。相手の名前を聞いてみると、普段比較的仲良くしている子の名前を挙げた。普段は仲がいいのに、ボスがいるとあからさまにミツキを下に見ることへの不満があったのだろう。

 私がばかな夢を描いていただけで、ドラマティックな結末ではなかったが、効果は絶大だった。ミツキは、勇気を振り絞ってがんばったのだ。

 『対等』を手に入れたミツキは、光り輝く笑顔を振りまくようになった。

 生活面が落ち着くと、学習面にも変化が起きた。以前のように、宿題が進まないということがなくなり、夕方から就寝までの活動がスムーズになった。

 ミツキが発達障害だということが、自然と私の頭の片隅に追いやられ、気にならなくなった。

 ミツキ自身が友だちと対等である自信をつけたこと、倉山先生の日々の接し方、友だちがミツキのことを『変わっているところがおもしろい』と受け止めてくれたおかげだ。
 ミツキは、小学校入学前の輝く笑顔を取り戻すことができたのだ。

 ミツキの周りのみんなに感謝。

 私にたくさんの学びを与えてくれるミツキに感謝。

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