遊び仲間②

 12月初めの面談で、ミツキの友だち関係について倉山先生に相談をした。まず学校での様子を聞くと、男女問わず大人数でボール遊びをしていて楽しそうだとのことだった。確かに学校は楽しいと言っている。体調を崩して休んでも、少しでも良くなれば退屈して早く学校に行きたがった。ミツキの言う放課後の様子を話すと、先生は驚いていた。

「ミツキは、学校ではどういう位置づけの子どもですか?」

「位置づけと言うか、みんなと遊べるようになってきている。こじんまり読書をするとかいうよりも、大人数で男女関係なくボール遊びをする姿をよく見かけます。で、放課後遊びになると、男だけの遊びになっちゃうのかな。そうなっちゃうと男だけだから、おそらく自分を出せていないのかなあとは、ちょっと思うかなあ」

 学校の中と外では子どもたちの関係性が異なることに倉山先生は戸惑っている様子だった。

「お友だちの中での優劣や位置づけの中で、ミツキは一番下なのかなあ、何となくみんなからばかにされた存在なのかなあと思っているんです」

「なるほどねえ」と先生は相槌を打った。

「もし何か言われたときに、はっきり言い返して、自分の位置を保っていけばいいのだけれども、たぶんそういった返しもうまくできないと思うんです。表面にはあまり出していないけれど、傷ついているのかなと心配しています。道で仲のいい友だちと会うと駆け寄るけれど、そうでないと50メートルくらい前から『あいつがいる』と言って遠回りをするんです。そういう態度だと余計に付け込まれるんじゃないかなと思うんです」

 倉山先生は、何度も大きく頷いた。

「うーん、もったいないねえ。せっかくいろいろな友だちと遊ぶことができるんだけど」
と言い、クラスの子ども達の顔を思い浮かべる表情で考え込んだ。

「たとえば、野島くんと遊ぶときはどんな感じ?」

「それはもう、本当に幸せそうです」

「それが、対等な感じなんだろうな」

「そうですね。でも、対等なんだけれども、二人の話を聞いていると、多少の優劣はありますね」

「うーん、なるほど」

「すごく、気を遣う。変に気を遣うから、余計なことになる。カードゲームをしていて、どのお友だちに対してもあまり自分が勝たないようにしているらしいんです」

「へえ、そう」

「自分が勝ってしまうと、お友だちの機嫌が悪くなって帰ってしまうこともあるのだとか。ミツキは、とにかく遊んでいたいから、帰られないように気を遣っているらしいんです。それもどうかなって思います」

「そういうこともあるんだ。だから、逆もあっていいんだけどね。自分だけ順番が回ってこないのであれば、帰っちゃえばいい」

「そうなんですよね」

「それで、ああミツキくんに悪いことしたなあって思わせればいいんだよ、本当は。で、そういう風に気を回しているから疲れちゃうんだよね」

 倉山先生は、一呼吸入れて話を続けた。

「遊びっていうのは確かにボスがいて、下っ端って言ったらあれだけど、たぶんどこかでそういうことはある。ただ、その中ではやっぱり対等に遊べる仲間であってほしいなあ。ボスが『こっち行こうぜ』って言ったらみんなで行く。でも、遊びの中ではみんな一緒に遊べる方がいい。いっぺん言ってみるといいんだなあ」

「そうなんですよ、主人は『何かあったら殴ってやれ、そうしたらお父さんが謝りに行ってやる』なんて言って。それもどうかと思いますが。怒りをあらわにしたり、自分はこう思っているんだ、違うんだってことをはっきり言えるようにとは、常々言っているんです。でも、その勇気がないみたいです」

「うーん、同じ3年生なんだから言っていいのよ。気まずくなって学校に来ていいのよ。そうしたらこっちも気付くよ。『おお、どうしたの。なんかあったんか昨日』って、『話そう』って呼ぶこともできるしね」

「なにか自信がないんですかね」

「自分が言ったことによって関係が崩れてしまうって気を遣っているよね。崩しちゃえばいいじゃん。それは、友だち関係じゃないんだから。新しい友だち関係ができるように、こっちもするんだから。やればいいよ。ちょっとワシも聞いてみようか」

「つまらないところに気を遣って、悩んで、特に解決もないことをずっと続けているんですよね」

「結局は周りが気付いていないし、自分だけが苦しんでいると思うよ」

「そうなんですよ。周りは気づいていないと思うんですよね」

「うーん、もったいない。つまらんな、そんな悩みは。これからそんなんいっぱい出てくるんだから。世界が広がれば。じゃけ、ここで一発かましておけばいい」

 倉山先生は、身を乗り出して、内緒話の体制を取った。

「お父ちゃんが言われることも一理あると思うよ、ワシも。なんかあったら親が謝りに行きゃいいんだから。まあ、学校の先生がそんなこと言うのもあれだけどもね。ぽんとケンカしてもいいと思うけど」

 倉山先生らしい意見だ。

「私もそうは思うんですけど、あの子の場合、どう受け止めるか、読めないから。やり過ぎちゃったら怖いんですよね」

「うーん、すごい一面が見られるかもね。すごいぶちぎれてしまうか。でも、それを見てみんなは感じるよ。
 で、やってる方も意地悪じゃなくて、なんとなくやってしまう雰囲気になっちゃうんだろうな。それをどこかでまずいなとは思っていると思う。でも、あの子はそのままにしているんだから、いいのかなあって言うのが続いていく感じ」

 私が常日頃ミツキに言っている通りだ。

「一言でいいのよ『帰る』で。帰ってみて、ピンポーンてきたらしめたものだよ」

 その通りだと思った。この面談中ミツキとリオで留守番をしてもらうために、私が家を出る4時半までに帰るようミツキに頼んでいた。なかなか帰ってこないので公園に迎えに行くと、子どもたちは野球をしていた。つまらなそうにベンチに座っているミツキに声を掛けた。ミツキは慌てて「オレ帰る」と言って立ち上がると、みんなが「なんで帰るの?」と聞いてきたのだ。

「きっと同じように帰ると言ったら反応はくると思うんですよね」

「うんうん、そう。くるよ。子どもの中ではこれは一大事だと思うよ、きっと」

 倉山先生は、少し先の未来を思う浮かべるように天を仰いだ。

「そういうのが近々あったらいいなあ。それにしても、気ぃ使いよるなあ。でも、あの子の優しさだな」

「そうですね。不器用なんですよ」

「本当の意味での優しさではないけどね。でも、これも勉強なのかなあ」

 大人でも人間関係に悩むことがあり、日々勉強だと思い知らされる。子どもならなおさらのことだろう。

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