倉山先生との面談③

 2週間後に控えている運動会のことも、とても心配だった。

「最も心配しているのが、運動会のダンスですけれども、ミツキは付いていけていますか?」

「付いていけていると思いますよ。今回のダンスは、表が緑、裏が赤の扇子を持って踊るんだけど、動き自体はそんなに難しくない。ただ、扇の表裏を返しながら踊るので、向きが逆になることはある。でも、それぐらい。できていないとは思わないですね」

「そうですか。安心しました。教育センターのテストのときに、向かい側に座った先生の手の形の真似をするというのがありました。パーとかチョキとか簡単なものから複雑なものになるのですが、複雑になると真似ができなかったんです。算数で三角形を書くのにも初めは苦労ました。空間を上手くとらえることができないからなのか、小さいときからお遊戯には参加してこなかったんです。
 1年生の運動会は何とか大丈夫だったのですが、2年生のときはダンスがものすごく難しくて。本人が、全く付いて行けないと嘆いていたので、担任の先生にDVDを借りて、2週間毎日一緒に練習しました。
 今のところは『今年は簡単だから、オレ結構いけてる』なんて本人も言ってはいますけど」

「やっぱり、それだけ努力してるんだなあ」

「いつでも二人三脚なんですよ。周りはだんだんと自立し始めていると思いますが。勉強も一緒に復習をしていかないと、付いていけないと思います。何をしてもどんくさいけど、サポートすることにより『やれば自分はなんでもできるんだ』という自己肯定感につながるものを今のうちにつけてあげたいんです」

 倉山先生は、頷きながらしばらく考えていた。

「何か得意なものはありますか?些細なことでもいいですよ」

「得意なこと。うーん、あまり思いつかないけど、バランス感覚はまあいい方かなと。最近スケボーを初めて、あっという間に乗れるようになったので。でも、他には思いつかないです。家での生活でも、手を洗えば足下は水浸し、食器洗いを頼めば、なぜか全身びしょ濡れですから」

 私も先生も笑うしかない。

「でも、理科的なことはかなり得意ですよね」

「そうですね。理科社会は得意です。でも、星が好きだと言っていた割には、すぐに飽きちゃうんですよね。もっと追究して欲しいのに、上辺だけなんです」

 倉山先生は頷きながら、またしばらく考えていた。

「ワシからしたら、もうちょっと、悪いことしてもいいのにという感じですよ」

 そんなこと言われたことがないので、面食らった。

「今までは、悪目立ちしていることを申し訳なく思っていたので、よかったです。初めて安心して家に帰れます」

「そんなに悪くないよ。いいところを伸ばしていって、カバーしていったら、絶対にいいお子さんになると思いますよ。そこを期待して。悪いところはそのうち治るし、勉強なんかやるときはやる、やらないときはいいよ。まあ、それくらい広く見ていきたいですね」

 倉山先生は多数派の基準で見るのではなく、少数派として見たときに「そんなに気にならない」と言っているのだ。基準を定型発達の子どもたちに合わせていたら、ミツキに足りない部分が多いということは、私も十分理解している。倉山先生は、そこを『広く見ていこう』と言っているのだ。そう思うと、ほんの少しだけ、胸がチクッとした。

 でも、気を取り直して考えれば、ズタボロに言われまくっていた昨年までの面談とは打って変って、明るい道筋が見えたような面談だったのだ。ミツキが自分に自信をもてる明るい未来へと倉橋先生が導いてくれるのだ。

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