倉山先生との面談②

 「もしかしたら、ミツキは先生の話が聞けていないのかなと思ったことがありまして、お伺いしたいのですが」

 掃除の件について、前夜のミツキと私のやり取りを先生に話した。

「ミツキは、先生が伝えたかったことを理解していない、と思うんです」

「うん、うん。そうだろうねぇ。教材って言ったらヘンだけど、いい教材になったと思う」

 倉山先生は、にっこり頷いて話し始めた。

「掃除のようなすごく生活の中で重要なことは、できる子じゃないとできないよ。得意苦手はあるけれど、掃除は大切な仕事だから、立派な人にやってほしいと説明して。
 その上で、罰掃除という言葉を聞いたことあると思うけど、ワシだったら、掃除をやらなくていいという罰を与えるよ。なぜなら、ケンカをしたり、人を傷つけたり、宿題を忘れたりするような人に、掃除のような大切な仕事は任せられない。そう人にやらせたくないから。
 みんなは、どう考える? と聞いたんよ。そうしたら、僕は、私は、立派な人になりたい、というので、じゃあ、掃除を通してがんばってみようよと。みんなは掃除できる人かなあ? と問いかけたら、葉野くんが『ぼく、いいです。やりたくないです』と手を挙げたから『やりたくない人は、やらなくていいよ。じゃあこれから、掃除の話をするから、葉野くんは関係ないからこっちにいてね』と言って、黒板の前にいてもらったんです」

 情景が目に浮かんできて、辛い。

「1日経ったらどうなるかなと思って、翌日の掃除の時間を楽しみにしていたら、葉野くんは、今日朝一にワシのところに来て『やっぱり僕、掃除してもいいですか? 僕、がんばりたいんです』って。『そうそう、ワシよく知っとるよ。葉野くんが、掃除得意なことを』ほうきの使い方がとてもうまいんです。窓の桟を積極的にやっている。雑巾もうまく使ってきているのを、ずっと見てきた。
 こうして、葉野くんが、考えてくれたことを、ワシはうれしく思ったなあ。初めは、ワシが掃除しなくていいと言ったから、楽だな、いいなと思ったかもしれない。でも、考えてくれた。そのあと、みんなにも葉野くんの言葉を伝えたら、みんなも掃除をやっぱりがんばろうと逆に思ってくれた」

 倉田先生は、ミツキが考えて出した答えをみんなに伝えたことにより、みんなの理解がもう一歩深まったことを喜んでいた。

「先生の伝えたいことを推測して、自分自身で考えることが、まだ難しいようです」

「それは、それでいいです。先生なんてことをって、逆にお母さんは心配したと思いますが、こういうことをやっていますと、お伝えしようと思っていたところです」

「もしかしたら、また同じようなことがあるかもしれません」

「あるかもしれませんねぇ」

「今回は自分で先生に話せたけれど、なかなか話せないということも出てくるかもしれません」

「そうならないように、わたしもします。もっていくところは求めていきたい。いろいろな考えがあっても、最終的には正しい方にもっていく。それがわたしの役目だと思っています。何日経っても正しい方向にもっていくので、安心して大丈夫です」

 前日にミツキから話を聞いたときは、ミツキはあっけらかんとしていたが、私は先生から早くも見捨てられたと思い、心配だった。

 しかし、倉山先生の話を直接聞いて安心した。その場ではミツキの考えを尊重し、自分自身で考えさせる。もし、それが長期化したとしても、人としてあるべきところへ導いてくれるのだ。

 帰宅後、すぐにミツキを抱きしめた。

「ミツキ、先生に掃除のことを自分でしっかり考えてお話しできたんだね。立派だね」

「うん、先生にほうきが上手だって褒められたぜ」

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