倉山先生との面談前日

 3年生に進級し、初めてのクラス替えがあった。クラス替えと言っても2クラスしかないので、大人からしたら代わり映えしないように思うが、子どもにとっては大問題だ。担任の先生も替わった。

「よかったよ。野島とまた同じクラスになれた。それからね、新しい先生は自分のことワシっていう、なんか面白そうな先生だよ」

 新しく転任してきた先生なのでまったく情報が無く、ワシというくらいなのだから年配の先生かと思ったが、広島出身の30代半ばの先生だった。

「倉山先生ってね、怒るとすごく怖いらしいよ。前の学校では先生が大きな声で怒ったら、関係のない隣のクラスの子がびっくりして泣いちゃったんだって。オレ絶対怒られないように静かにするんだ」

「へえ、そんなに怖い先生なの」

「きっと怒ったら怖いってこと。いつもはすっごくおもしろい先生。授業中の半分が授業に関係ない話なんだ。毎日が楽しいぜ」

 あっという間に、ミツキは倉山先生の虜になった。

 私も実際どんな先生なのか直接お話をしてみたかったし、ミツキのことも予め伝えておきたかった。同時に、倉山先生から見たミツキの状態や新しいクラスでの様子も知りたかった。そこで、新しい環境に慣れてきたであろう5月の終わりに個人的に面談を申し入れた。

 面談を翌日に控えた日の夕飯どきのこと。

「ママ、おれ今度から掃除当番をやらなくていいことになったんだ」

 ミツキは、うれしそうに話し出した。

「掃除しなくていいってどういうことなの?」

「よく分からないんだけど、先生が掃除苦手な人って聞いたから手を挙げたら、じゃあ掃除しなくていいってことになって、黒板の前に立ってたんだよ」

「ふーん。先生は、その前の話はどんな話をしていたの?」

「えー、どんな話だったろうな。よく分からないけど、とにかく掃除が苦手な人はやらなくていいよって、先生が言うからさ」

「ミツキは掃除が苦手だから、やらなくてラッキーっと思ったってことだね。でも、本当にそれでいいのかな?自分の使っている教室だよ。それに、黒板の前で立ってどんな気分だったの?」

「黒板の前にただじっと立ってるって、結構辛いんだよね」

 黒板の前に立っていることによって何かがよくなかったということは分かっているようだが、それ以上は深く考えていなかった。

「明日の朝、学校に行ったらすぐに先生に、昨日の掃除の話をもう一度聞かせてくださいって言ってごらん。きっと先生は、掃除は大切だという話をみんなにしたかったんだと思うの。そこをよく聞いて、もう一度自分で考え直してごらん」

 私は、明日の面談で聞くことリストに「掃除の件」と書き加えた。

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