1年2組
「1年2組担任の石倉真美です。先生はみなさんと同じ1年生です。どういうことかと言うと、私は、先生1年生なのです」
先生1年生と自己紹介する石倉真美先生は、私と近い世代に見えた。それもそのはず、石倉先生は、自衛官と塾の先生を経て小学校教諭になったとのことだった。
「入学式でのみなさんはとても立派でしたよ。他の学年の先生方も今年の1年生はすばらしいと誉めていました」
石倉先生はべた褒めしていたが、第一子の母親としては他学年の児童の入学式に出席したことがないので、違いが分からなかった。
これは、4年後リオの入学式に出席して分かったことなのだが、児童は学年によってカラーがだいぶ違うのだ。リオの学年は、男子がとにかく元気で、とてもかわいらしいのだが、先生方は大変そうだった。
ミツキの学年の児童は、男女ともに大人しく従順だった。
入学式から帰宅したミツキは不機嫌だった。
「まあまあいいことと、すごくイヤなことと、けっこういいことがあった。まあまあいいことは、隣りの席が男だったことだ」
ミツキの1年2組は、男子18人、女子12人の計30人。出席番号順に男女の組合わせで並ぶと、廊下側と真ん中の2列は男女の席となり、窓際の1列のみ男子同士の組合わせ席だった。
ミツキの斜め前の席の望月くんが、席に着いてすぐ後ろに振り向き、ミツキに問題を出してきた。
「13足す14ってなんだ」
「わからない」
「だっさ」
ミツキが腹を立てていると、隣りの席の矢島くんが助け舟を出してくれた。
「27だよ」
矢島くんは、こっそり答えを教えてくれたあと、微笑んで「友達になろう」と言ってくれたのだそうだ。
「矢島くんは、すごくいい子だけどさ、望月は絶対ゆるさねえ」
「いきなり洗礼受けちゃったね。でもさ、まだ足し算、しかも二桁の足し算なんて習ってないんだから、気にしなくていいんだよ。習ったのに出来なかったら困っちゃうけど、これからやるんだから、気にしない。それより、矢島くんとお友だちになれてよかったじゃない。助けてくれるなんて、優しい子だね」
そう励ましながらも、不安な気持ちになった。ミツキの通っていた2年保育の公立幼稚園では、学習時間はなかった。家で通信教材のワークブックをやってはいたが、理解度が極めて低く、かなり不安だった。しかし、幼稚園の友だちも先取り学習をしている様子はうかがえなかったので、焦りすぎは返って良くないと思っていた。
しかし、小学校は地域の私立幼稚園や保育園から児童が集まってくる。私立幼稚園では、学習時間があるようなので、スタートに差がついてしまう。
自衛隊出身の担任、大人しく従順で賢そうな同級生たちの中で、自由人且つ勉強嫌いのミツキは、どのように成長していくのだろうか。
多数派の影響を受けて、そちらに引っ張られていくのか。それとも反発するのか。楽しみでもあり、不安でもあった。