縄跳び

 冬になり、園庭開放時に縄跳びをする子ども達が増えてきた。年少さんはひとり縄跳びの練習。年長さんは、数人集まって長縄を楽しんでいた。

 ミツキは、もちろんやらない。

 保育時間内で縄跳びをするときのミツキの様子を先生に聞いてみた。

「一生懸命ぴょんぴょんしても、縄を回してそれを飛ぶって、子どもたちには難しいことなのよね」

 ミツキの状況が浮かんできた。縄をやみくもに振り回しながら、無意味にジャンプする姿。

 日曜日、ミツキを公園に連れて行った。近所で一番芝生が広く、視界を遮るものがない公園だ。ここならミツキの気を散らすものが無いので集中できるだろう。

 広い芝生のど真ん中に私とミツキだけ。芝生の周りをランニングする人が数名いるだけ。

 案の定、想像した通りだった。縄跳びの始めの構えはいいのだが、縄が後ろから頭上を通って前に落ちたらその後は、体の前で縄が暴れるだけ。その暴れる縄を見ながら無意味なジャンプを繰り返す。

 縄跳びは、縄を回すことに始まり、その縄を飛び越える。この連動したふたつの動きの繰り返しだ。二つの動きを同時にすることが難しいミツキのために、動きを分解することにした。縄跳びを地面に置く。  

「今からママがパン、パンってゆっくり手拍子をするから、それに合わせて跳ねてみて」

 5回ゆっくり手を叩く。びっくり仰天。手拍子など関係なく跳ねてしまう。

「ミっちゃん、早いよ。ママの手拍子の音をよく聞いて。8回同じリズムで叩くよ」

 再度8回ゆっくり手を叩く。3度繰り返して、この方法は有効でないと悟る。

「ママと両手を繋いで一緒に飛ぼう。ママがピョンピョンってゆっくり言うから、それに合わせてママと一緒に飛ぶんだよ」

 私の腕をブンブン振り回し楽しげに飛ぶミツキ。彼は、そもそもリズムを知らない。

「ミっちゃんも一緒に手拍子でリズムとってみよう」

 寒空の下、広い芝生の真ん中で、持ってきた縄を置いて、ゆっくり8カウントで手拍子の練習。

 8カウントの速さを変えて繰り返すうちに、リズムが分かり、私の手拍子に合わせて飛べるようになった。

 次は、縄回し。

 手首の小刻みなスナップができない。縄を回すのに腕を肩から回してしまう。また縄を地面に置かせた。

「ミっちゃん、はい、手首ぶらぶら。手首に力入れないよ」

手首の力が抜けたところで、縄を束ねて右手で持つ。

「肘まげて、脇腹締めて、手首の力は抜いたまま、手拍子に合わせて縄をくるくる回してみて。はい、1,2,3,4,5,6,7,8」

 これはすんなりできた。

「次は、縄を回すリズムに合わせて一緒に跳ねてみて。はい、1,2,3,4,5,6,7,8」

「おお、なんか楽しくなってきたぞ」

「うん、ミっちゃんとっても上手だよ。今度は左手に持ち替えてやってみよう」

「もう簡単だぜ」

「すごいね。1日でここまでできちゃった。じゃあついに、ファイナルミッション。両手で縄を持って、縄を飛んでみよう」

 そう簡単にはいかなかった。二つの動作の折り合いをつけて同時に行うことの難しさよ。

「縄跳びの何が楽しいんだろう」

 モチベーションが一気に下がったミツキがぼそりと言った。

「ちょっと飛べるようになったら、もっと長く飛べることが楽しくなって、更に飛べるようになったら、いろいろな技に挑戦できるところが楽しいんだと思うよ」

 こういう発想がミツキにはないから何をやっても根気がないのだけど、知っておいてほしい事実なので一応諭してみる。

 何度も挑戦し、ついに7回飛べた。

 帰り道「かかとが痛いよ」とベソをかいた。べた足で着地するので、かかとを痛めたようだ。

 翌日には19回飛べた。後はもう、幼稚園にお任せだ。

 ミツキは、何をするにも出だしに困難が付きまとう。どうしてなのか不思議だった。

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