ミツキ VS リンちゃん
ミツキの通うプレ幼稚園は、月・水・金の週3日コースと火・木の周2日コースに分かれていた。週3コースは3クラス、週2コースは2クラスあった。1クラスの児童数は20名ほどで、クラス内では1グループ4名ずつに分かれていた。ミツキの班は、色白イケメンのリョウくん、おとなしいユウくん、しっかり者のリンちゃんとミツキの4人。朝、教室に入るとき、肩にピンクのリボンを着ける「ピンクグループ」だった。
教室間の移動、お弁当、お遊戯の立ち位置、工作のテーブルなど、園での全ての行動をこのグループでしていた。
リンちゃんは丸顔のかわいらしい女の子だった。しかし、しっかり者ゆえにミツキにはとても厳しかった。リンちゃんからしたらミツキのようなグウタラ人間は子どもながらに鼻持ちならなかったのだろう。教室内のことは私には分からないが、ミツキがグループ行動を乱しているだろうことは察しが付く。
園の帰りがけにリンちゃんに「リンちゃん、バイバイ」と声を掛けて手を振ると、それまでお母さんに笑顔を向けていたリンちゃんの眉間に一本の深いしわが刻まれた。だいぶ嫌われているな、と苦笑。
帰り道「ミっちゃんは、リンちゃんとお教室ではどんなおしゃべりするの?」と聞いてみた。
「えーと、ミっちゃんはいっつもリンちゃんに怒られているんだよ」と、まるで他人事のように話す。
「へえ、どんなことで怒られるの?」
「うーん、よくわかんない」
「そっか、よくわかんないか」
リンちゃんごめんね。ミっちゃんに怒っても馬の耳に念仏なんだよ。これ以上リンちゃんの眉間のしわが深くなりませんように。
紙工作は、手に糊がベトベト着くのを嫌がって参加しないミツキだったが、粘土は好きだった。
ある日、ミツキが
「今日は粘土でいろいろなものを作ったよ」
とニコニコしながら言った。
「ヘビとお肉の骨とチンチンとおばけの卵と恐竜の卵」
「へえ、どうやって作ったの?」
「粘土を少し取って両手でコロコロするとすぐできるんだよ」
「たくさん作ったんだね」
ミツキらしいなと私は笑ったが、ミツキの表情は一気に曇った。
「それなのにさ、リンちゃんがすごく怒ったんだよ。どれも同じに見えるし、役に立たないもの作るなって」
私も子どものころに粘土遊びはしたが、役に立つものを作ろうという発想はなかった。作るものといえば、たいていは動物だったと思う。
役に立つものとは、何だろう。家とか車だろうか。
「リンちゃんおもしろいね。粘土遊びに役に立つも立たないもあるの? 何だったら役に立つんだろうか。ちなみに、リンちゃんは何を作ったの?」
「絆創膏だよ」