ミツキはスペシャル

 夜8時にミツキが寝たのを確認してからじいじは帰っていく。ある日の帰り際、じいじが笑いながら

「ミツキっておもしれえな。なかなか公園に辿り着けないんだよ。いつもすぐ近くの道路沿いの植え込みの前に座り込んで土遊びだよ。何が楽しいのかねえ。20分くらいはそこから動かないんだからね」

 あの場所だなと察しがつく。

「公園に着いてからも遊具では遊ばないで、どこに行っても植え込み専門。特にお気に入りなのが、土がこんもり山になっているところで、そこを『まっちゃのやま』って呼んでて、滑り台みたいにお尻で滑べるんだよ」

 だから毎日異常にズボンのお尻が汚れているんだなと、納得。

「一番参っちゃうのが、顔見知りのお母さんたちがいると、その会話に混ざろうとするところなんだよな。オレはこれが一番参っちゃんだよな」

 じいじの言っていることが痛いほど分かった。

 2歳2か月のころのミツキは、しゃべりが上手くできず「パパ、ママ」以外は「あっち」くらいしか話せなかった。周りの子はどんどんしゃべりだしていたので初めは心配した。

 ところが、2歳半には爆発的に言語が増え、今度はおしゃべりが止まらなくなった。

 私がママ友とおしゃべりしているとミツキが話しに加わってくるので、友だちと遊ぶように促さなければならなかった。ある日、ママ友の一人が

「ミっちゃんて、なんか空気読めないよね」

と言った。3歳の子に空気を読むなどできるのだろうか、と疑問に思った。話の途中に割り込んでくる子はたくさんいた。しかし、冷静に考えると確かにその率はミツキが圧倒的に多かった。

「お父さんもそう思うんだね。私だけじゃなかったんだね。ミツキって何か、何なのかはよく分からないけど、な~んかヘンなんだよ」

「急な行動が多いから危なっかしいしな。でもまあ、ヘンていうか、ミツキはすごいんだよ。なんか特別ってことだよ」

 ミツキとの日々の生活の中には、なんとなく扱いづらい「小さなズレ」を感じることが多かった。それを相談しても「3歳児なんてそんなものでしょう」と誰も理解してはくれなかった。家の中にいるときはわりとおとなしいのでパパは私の話にピンとこない様子だった。ミツキの扱いづらさは、外での行動を同年齢の子どもと比べて、それを目の当たりにしないと分かりづらかった。

 じいじが私と同じことを感じていると知り、私は理解してくれる人がいるという連帯感がうれしかった。毎日接していないと感じることができない「小さなズレ」。

 じいじは「特別」としか言わなかった。特別の後ろに負の言葉が入っていたら、子育てが辛くなっていただろう。

「特別っていうと、なんかすごい人みたいでいいね。ミツキは、スペシャルなんだね」

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