中田英寿なりきり散歩

 我が家の窓からは運河が見える。運河沿いは緑道公園になっていて、老若男女の憩いの場である。ミツキがねんねのころは「あんよができるようになったらお散歩しようね」とそのときが来るのを楽しみに待っていた。

 しかし、歩きが上手になって実際散歩してみると危険が多く、私は神経をすり減らすこととなった。

「緑道のお散歩って、ドングリをひろったりして、のどかで楽しいよね」と児童館で出会った女の子のママは言っていたが、とてもそうは思えなかった。

 一般道では、ベビーカーにおとなしく乗っているが、緑道ではどうしても降りたがる。降ろしたが最後、手を繋ごうにも振り払われ、縦横無尽に走り回る。急に止まったかと思うと、また急に走り出す。緑道の両脇の植え込みに入り、しゃがんで土をつんつんしていたかと思うと、いきなり立ち上がって道に飛び出す。緑道は自転車走行もできるので、飛び出しは大変危険だ。四季折々の草花を見る余裕などまったく持てない。

 私は常にミツキの行動の予測をしながら見守りつつ、周りの人や自転車の往来に気を配った。

 これではハラハラしっぱなしで、ちっとも散歩を楽しめない。緑道の散歩は避けるべきかとも考えたが、せっかく良い環境に住んでいながら、活用しないのはもったいない。何度も散歩を繰り返すうちに、ミツキの歩き方も変わってくるかもしれない。

 散歩を続けるには、私の気の持ち方を変える必要があった。この状況を嫌がってばかりいても仕方がないのだ。

 当時(2006年)テレビのワイドショー番組では、FIFAワールドカップ日本代表の中田英寿がよく取り上げられていた。中田選手がMF(ミッドフィルダー)として、いかにグランド全体の動きを捉え、それに連動する動きをしているかをさまざまな角度から検証・解説し、絶賛していた。

 サッカーのルールをほとんど知らない私が興味を持ったのは、中田選手の30秒間の眼球の動きをスローモーションで捉えたものだった。常にフットワーク良く軽快に足を動かしながら、敵や味方の動きを捉える眼球の動きの速さは、さすがトップアスリートと感嘆した。

 私はこの番組を観てハッとした。

 ミツキを見守っているときの私の足や眼球の動きと同じじゃないか! 中田選手はチームの勝利のため、私はミツキの安全かつ楽しい散歩のために最善を尽くすのだ。

 早速、中田英寿なりきり散歩を試してみた。トップアスリート気分の動きでミツキを見守ってみると、充実感が増して散歩が楽しくなった。

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